HackOsaka2017
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開催レポート2017
国際イノベーション会議 Hack Osaka 2017 (2017.2.9)

2013年に始まった大阪市主催の国際イノベーション会議Hack Osaka。第5回目となった本年2017年は2月9日(木)に開催された。

昨年と同じくグランフロント大阪のコングレコンベンションホールAを会場として行われた本イベントには、起業家、支援者、大企業社員など様々な参加者700名以上が日本国内のみならず海外からも来場。会議全体は主に英語で進み、当日はインターネットを通じて会場の様子が世界へ発信された。司会進行を務めたのは本年も、イギリス、リヴァプール出身でありながら日本で落語家として活躍するダイアン吉日さん。軽やかなトークと共に本イベントの幕が上がり、大阪市経済戦略局長の井上雅之氏の開会宣言をもってスタートした。

グローバル・チャレンジャーズ・トーク―スタートアップから始まるデザイン変革
土屋尚史氏(株式会社グッドパッチ 代表取締役社長/CEO)

世界で活躍する若手起業家からのメッセージということで、東京及びベルリン、台北にオフィスを構えるUIデザインカンパニーである株式会社グッドパッチの代表取締役社長/CEOが登壇した。

「多国籍で構成した会社で、最初から世界をマーケットにしたビジネスをしなくてはならない。」彼が気づきを得たのは、6年ほど前にDeNAの難波智子氏の講演を聞いたときだった。これをきっかけにアメリカのスタートアップをモデルとしたビジネスを立ち上げたいと強く考えた土屋氏は、翌日から必死でシリコンバレーへのつてを探し、面接を受けるために旅立った。奇しくもこれは2011年3月10日、東日本大震災の前日だ。「たった1日行くのが遅かったら僕はサンフランシスコに行けなかった。たった一日で僕の人生は大きく変わりました。」サンフランシスコと土屋氏の運命的なつながりが語られる。サンフランシスコで3か月間インターンとして働いたのち、土屋氏は帰国し、東京でグッドパッチを立ち上げる。5年が経ち、100人のデザイナー、エンジニア、PMを抱える会社に成長している。

企業、特にスタートアップにおいて、近年デザインの重要性が増してきている。土屋氏はこの理由を社会の変化に関連付けて説明する。現在、社会には情報が溢れ混沌としている。選択肢が多いこの状況で、プロダクトの価値がエクスペリエンスで判断される時代になってきている。また、スマートフォンの普及が進んだ今、デスクトップPCが主流だった時代と比べてデバイスと人との距離が縮まっており、デバイスを介したあらゆるタイミングでのエクスペリエンスが重要になってきている。したがって、プロダクトのユーザインタフェース(UI)とユーザエクスペリエンス(UX)がビジネスの成否を分ける時代になっているのだ。このため、デザイナーの要件として、見た目だけではなく体験全体をデザインできることが必要となっている。それができるデザイナーの価値が非常に高くなっているのだと土屋氏は主張する。

「変革はいつもスタートアップから起こる」土屋氏は語る。スマートフォンの発達によってデザインの重要性がより強まった。また、近年クラウドの発達によって、スタートアップのネックとなっていたシステム投資や人件費の問題がなくなり、小規模な企業でも革新的なサービスを創ることができる状況になっている。この状況に加え、スタートアップは小規模ゆえに自由な発想でプロダクトを創ることができ、改善スピード、意思決定スピードが速いという長所を有している。このため、デザイン戦略を推し進める上でスタートアップが有利な状況ができあがっているのだ。

「デザイン変革とは、デザインによって人々の感情、行動様式を変えることにある!」土屋氏がデザインを重視しているスタートアップの例として挙げたのはAirbnbだ。Airbnbは、お金を払って人の家に泊まるという当時の常識からするとばかげていることを、ホストとユーザの信頼関係を築くサービスをデザインすることで当たり前のことにしたのだ。

一番重要なのは、経営者がデザインの重要性を見た目以外のところにあることを理解するところである。と土屋氏は繰り返す。彼は日本でのデザインへの投資額の少なさを挙げ、デザインの価値が上がらないことに危機感を示す。デザインへの投資額が少ないのは、ベンチャー投資と同じ構造だ。しかし、彼はこう語る。「投資とデザインは違う。デザインはリスク要因ではなく、ちゃんとしたプロセスを踏めば確実にユーザの価値に結びつく」日本人のデザインに対する認識を変えていく必要性を考えさせられる訴えだ。

土屋氏はこう語る。UXはデザイナーだけが考えることではない。UX志向は全てのビジネスマンが持つべき考え方だということを理解していただきたい。デザイン変革は一人ではなくチームのデザインへの意識を変えるところから始める。これができる会社が今後日本の中でも高い成長をして行ける会社になるのだろう。「大阪の会社からもデザインに投資をして世界に羽ばたく会社が生まれるといいなと思っています。」来場者を鼓舞する言葉によって、講演は締めくくられた。

講演1
―英国ブリストルから学ぶ、イノベーション文化を可能にするもの ―800年の歴史が教えてくれたこと―
ニック・スタージ氏(Engineshed Director)

講演1人目は、ブリストル市とバース市地域で持続可能で包括的な経済成長の促進を使命とする、Engineshedの創立者であり現代表のニック・スタージ氏。「ブリストルのエコシステムは800年間続いてきたもので、それを作ったのは私だけではない」と強調し、話し始めた。

常に電子工学、テクノロジー、エンジンに興味を持っているというスタージ氏。その興味はそれらがどのように作用するのではなくて、それがどのように人々に影響を与えるかに向けられているという。大学では電子工学とコンピュータ計算を専攻し、トップの成績を修めた。しかし、電子工学については殆ど理解せず、テストでよい点を取った結果だという。そこで彼は一つの気づきを得た。「インパクトを起こすには、物事を完全に理解する必要があるわけではない。」

卒業後、今で言うスタートアップに勤務した後、半導体大手のInmos社に入社。1993年には同僚と6名でビデオ会議ツールを提供するMotion Media Technologyを立ち上げる。イギリス、アメリカに125人の従業員を抱える企業に成長し、株式公開もした。最高時価総額は2億7000万ポンド、現在の日本円に換算すると370億円だ。会社を成長させ、40か国に製品を売った経験は彼にとってもチームにとっても素晴らしい経験となった。その後、インキュベータであるSETsquaredの運営に参加。大学がバックアップするビジネスインキュベータとして1位に育て上げた。3年前、大学の構内から出ることになり、複数プロジェクトを協力させるEngineshedを創立した。当時スタージ氏は「成功したインキュベータをどうやってもっと都市のためによく機能させることができるか」を考えていた。

次にスタージ氏はブリストルについて語った。800年間貿易港として栄えたブリストルでは、15世紀に漁師が北アメリカを発見し、そこで豊富に獲れた鱈を塩漬けにして持ち帰っていた。5、60年ほどの間市政府に告げずに密漁として行っていたが、非合法でこのままでは続かないと感じた漁師がイタリアの冒険家を雇って北アメリカを公式に発見した。確かな証拠はないとのことだが、スタージ氏は「ここには起業家の精神、今までのことを覆すという精神が宿っています。そして今も私たちはその精神を持っているのです。」と強調する。その後の17、18世紀、ブリストルは奴隷貿易の中心地として栄えたことで人々は倫理の大切さを学び、ビジネスに役立てられているという。

その後、港の活動は控えめになり、多様化が進むようになった。ビジネスと市政がお互いを信頼しない状況が続き、都市の勢いは衰え、輝きが失われた。イノベーションも起こってはいたが緩やかだった。しかし、5年前に初めて市長が選挙で選ばれるようになり、そこから状況は変化したという。市長はビジョンを持ち、責任を持って文化を変えることができる人物だったのだ。地理的な観点ではブリストルは人口50万人、近隣地域と合わせてウェストオブイングランドと呼ばれる人口110万人の経済地域を作り上げる。部門、人に多様性があり、アートや文化も強い。また、世界の35%の自然科学はブリストルで生まれている。使用されている言語は91、2種類だという。「グローバルビジネスにとっては素晴らしい資産です」と語るスタージ氏。では、市の文化は保守的な傾向から協調的な路線にどのようにして変化したのか。

「イノベーションエコシステムはケーキ作りに例えれば、レシピを作りたいものに対応させるための知恵のようなものだ」とスタージ氏は語る。人々がどうレシピとインタラクトするかということだという。

エコシステムは複雑で、一人が完全に理解し、コントロールすることは不可能である。ブリストル市長は全てをコントロールしようとしたのではなく、エコシステムの中に存在する人々のスキルを上手に役立てたのだとスタージ氏は語る。また、もう一つ大事なものとしてクリエイティブテンションが挙げられた。コミュニティ間、文化間、階級間、部門間のクリエイティブテンションが、イノベーションを促進するのだ。クリエイティブテンションの例として紹介されたのは、ヨーロッパで著名なアーティストのバンクシー。「クリエイティブテンションなしに彼は胸を貫くような作品を創作できなかっただろう。」

エンジンシェッドの事業紹介後、スタージ氏はイノベーションエコシステムに重要な項目を3つ挙げた。一つ目は自信。「強い自信を持てば、人はオープンになり、アイデアを共有することができ、チャレンジに立ち向かい、異なる方法で物事に取り組もうとする。地方レベル、都市レベルで自信がある場合、エコシステム内にいるアクターと物事を共有し、協力することができる。そして、物事が協力の下に進められている場合、競争的な緊張感を気にしなくてよいため、より成功しやすくなる」と彼は語る。

2つ目は行政の役割。国家レベル、地方レベルのどちらにおいても重要だとスタージ氏は語る。例として、ブリストルで12年前にSETsquaredを始めた際に存在していた地方政府が挙げられた。政治権力はないが資力はあり、インフラやイノベーションに投資を行っていた。しかし、投資しているが故にコントロールを取りたがり、また公的資金を投入しているため、結果を測定したいというプレッシャーをプロジェクトに強く与えたためうまくいかなかったという。さらに、公的資金への依存も発生し、公的資金なしには何もやらない状況が発生していた。地方政府が消えたとき、物事がうまく進み始めたという。「まるで霧がすっと上がったかのような感じだった。」スタージ氏は、地方政府について、うまく機能し、良いタイミングで身を引いたと評価する。「エコシステムにおいて大切なのは資産だけでなく、人々の情熱やエネルギー、アイデアなのです。」

3つ目はビジネスプラクティス。これは市場シェアのことだ。歴史的に、産業はシェアを取り合っていた。しかし、協力して同じものをサポートすることができれば市場自体が大きくなり、全員がより多くの利益を得ることができるのだ。エンジンシェッドは実際、3つの銀行から投資を受けているという。

都市の協力の例としては、広帯域のワイヤレスネットワークであるBristol Is Openと、テクノロジーを使ったアート作品を設置し、市民にも関わってもらうPlayable Cityの二つが挙げられた。これらはブリストル及び周辺地域に活気に満ちたイノベーションエコシステムを作り出している。

「私たちは何百年もイノベーションを続けているのです」スタージ氏は語る。漁師や商人たちがリスクを取って何1,000マイルもの航路を航海した。最近では鉄道システム、航空業界のリデザイン等、全部ブリストルで起こっていることなのだ。それが起業家精神の基盤を作ったのだ。「エンジンシェッドはその中で、エネルギーや新しいビジネス環境を創ることへの欲求を集めるいわば避雷針のような働きをしています。」スタージ氏は言う。

「イノベーションは一人の個人では起こせない。一つのレシピからは作り出せない。」そう語るスタージ氏は最後に「他の都市で起こっていることから学び取って欲しい。ボトムアップで協力してデザインされた都市は、人々にとって何がベストかを理解することに自信を持っている。なぜならチームワークですから。おおきに」と大阪市民へのメッセージを語り講演を締めくくった。


講演2
―Urban Redesign ─製造業の都市はどのようにスタートアップエコシステムの中心地へと変容したのか─
ジェフリー・マクダニエル氏(Executive in Residence)

講演2人目はイノベーションワークスのレジデントディレクターであるジェフリー・マクダニエル氏。「ピッツバーグはブリストルよりも若い都市です。ましてや大阪よりもはるかに若い都市なのです。」マクダニエル氏は語り始める。

ピッツバーグ市はアメリカの北東に位置し、ペンシルバニア州で2番目の規模の都市となっている。アメリカの中では歴史が古く、最初の13植民地の1つだ。重要な役割を果たしたのは川だと言うマクダニエル氏。交通手段となり、飲料水を提供し、そして、現在ピッツバーグと呼ばれているものをつなげてくれたのだ。ピッツバーグのコミュニティの団結をもたらしてくれたのは川なのだ。支流がつながり、つながった合流点でピッツバーグの三角州ができ、これが「黄金の三角地帯」と呼ばれているものだ。マクダニエル氏は三角形を重要な図形であると強調し、話を進める。また、この川の合流点により、「鉄の都」の名前を得たという。

マクダニエル氏によってピッツバーグで創立された企業が紹介される。石炭やシェールオイル等、豊富な天然資源が存在し、引き寄せられる形で企業が誕生、移動してきたため、人口が増加した。その結果競争力が高まり、イノベーションのマーケットプレイスとなったのだ。例として挙げられた企業には、ライドシェア企業、UBERからUSスチール、HEINZ等、様々な業界が含まれており、かつ新興企業と老舗企業が入り混じる。これらの企業は多くの富を生み出し、ピッツバーグに拠点を置き続けた。企業の財団も作られ、ピッツバーグのエコシステムをサポートし続けている。

ピッツバーグには多くの大学があり、その中でも3大学が拠点となっている。また、エコシステムを支える革新的な非営利活動も三角形を作る形で存在する。例として挙げられたTechshopは、起業家等が高価な工作機器を使える工房だ。国家機関であるグリーンビルディングアライアンスのピッツバーグオフィスはアメリカ国内でも最大規模であり、都市の運営にかかる消費電力の削減を目指す活動を指導している。研究開発拠点をピッツバーグに置いている企業も少なくない。

投資家の視座からは、ピッツバーグの企業への投資額が大きいことが述べられた。エグジットされた企業数は48件、総買収額は78億ドルにも上る。現在、ピッツバーグで経済を動かしているのは、巨大な老舗企業ではなく、若い技術志向の企業である。そして、巨額の投資をしたのもまた地元企業である。これは2011年から2015年にかけて、世界的にM&Aが少ない期間に行われたというから、ピッツバーグへの投資額がいかに大きいかが理解できる。また、企業の特徴として、マクダニエル氏は多様なテクノロジースペースを挙げる。テクノロジーの半数はソフトウェアだが、医療機器、エンジニアリングデバイスも増え続けている。ピッツバーグの都市の人口は少なく、グレーターピッツバーグ地域で2300万人ほどの規模だが、一人あたりの投資額、ビジネスの存在額を見ると、サンフランシスコやボストンと比べてもトップ5に入るという。ベンチャーキャピタルの投資コミュニティは国際的で、92%の投資額がピッツバーグ外からきているのも大きな特徴だ。必要な投資を得るためにアイデアを持って違う場所に移動する必要がないのは創始者や起業家にとって嬉しいことであるとマクダニエル氏は述べる。「ここで起業すれば、資金が入ってくるのです。」そして、イノベーションの地にとって、情熱を持つことは大事であり、その情熱はスポーツからも生じていると述べ、ピッツバーグの説明を終えた。

最後に、マクダニエル氏の所属する機関、関わっている企業が紹介される。粉末状の金属を3Dプリントに活用したX1は、ピッツバーグのこれまでの鉄鋼の歴史につながる形でイノベーションを生み出した。ピッツバーグをホームとする4momsはロボット工学を利用してファミリー向けの革新的な製品を生産している。マクダニエル氏自身はイノベーションワークス、アクセラレータであるアルファラブズ、アルファラボギアに所属している。ここで時間切れとなるが、マクダニエル氏は「プレゼンテーションをしているとき、時間が無くなっても大事なことは言いなさい」という自身の教えを体現する形で、アルファラブズがスポンサーしているハードウェアカップについてコメント。International Hardware Cupの国際予選であるMonodukuri Hardware Cupが本日大阪で開催されることで、Hardware CupがInternationalの名を冠することになる本日は歴史的な日であると強調した。最後にアートとテクニカルデザインを融合させた例、社会的にも革新的である旨が説明され、大阪市への感謝を表しながら講演が閉じられた。

講演3
―教育デザインと日本のスタートアップ─日本の4都市を訪問して─
エイジェイ・レヴェルス氏(Politemachines 研究者)

3人目の講演者は、Politemachinesで戦略リサーチャーとして働くエイジェイ・レヴェルス氏。2000年に休暇で日本を訪れた際に、「日本はPolitemachineを作る天才だ」と感銘を受けて会社名を付けたという彼女は、日本でイノベーションが必要だと謳われている状況に理解を示す。

レヴェルス氏はスタートアップを一時的な組織と考えているという。人々が集まって、可能性のあるビジネスアイデアの実現方法を考え、実験するための一時的な方法だ。成功のためには実験ができること、知的財産の保護ができること、資金があること、見返りがあることが要件となる。

2016年に、レヴェルス氏はスタートアップのエコシステムが日本でどのように発展しているかを自らの目で確かめるために来日した。東京、大阪、京都、福岡の4都市を訪れ、インキュベータ、スタートアップ、アクセラレータにインタビューを行ったのだ。うまくいっているか、何が必要か、何かできることはあるかインタビューする中での発見、特にどういった機会が潜んでいるかについての発見が本日のテーマとなっている。

まず、日本の状況が語られる。第一に若者が人生に成功するうえでのライフパスの存在が挙げられた。日本に特有な事象だが、企業で働くことが理想とされている。このため、スタートアップを始めようとする人は少ない。また、大学でスタートアップについて学ぶ機会も少なく、就職活動が忙しく研究する時間も取れないため、起業など考えられないという現状がある。スタートアップに対して家族のサポートが得られないことも多々ある。この現状に関連して、スタートアップが入れ子状のシステムで成長する事実が挙げられた。これはアメリカでも見られる現象で、外円に制度上の支援、中の円に社会支援、一番内部の円に個人的な支援が入れ子状になっている構造だ。

課題を16以上発見したというレヴェルス氏だが、今回は教育に大きな機会が潜んでいると考え、教育のみにフォーカスを当てて語られた。スタートアップ教育はインキュベータやアクセラレータで行われると考えられがちだが、実際にはもっと早い時期で与えられる必要があり、それら以外の場所にも多くの教育機会が存在しているとレヴェルス氏は主張する。また、利益を求めるだけでなく、コミュニティ、自然等全てにメリットが及ぶ形で行われるべきであり、企業には社会責任があるという意見が、日本の「三方良し」という考え方に結びつけて説明された。

レヴェルス氏は、スタートアップ教育を受ける場として様々な例を挙げる。NHKのテレビ番組でスタートアップを取り上げれば、家に居ながらにしてスタートアップの考え方、方法論を学ぶ機会が増えるだろう。また、すでに出来上がっている学校教育システムへの組み込みも提案された。小学校で子供たちが新しいビジネスについて遊びながら学ぶのはどうか。高校では問題解決手法を学び、また、遠足でビジネスについて学んではどうか。職場でも、退職間近の社員に会社の設備を用いて教育を行えば、退職後にパートタイムで働く代わりにスタートアップを立ち上げることができるかもしれない。さらに、そこで得た顧客を元の会社に紹介することもあるかもしれない。

スタートアップ教育は、収益を上げることだけでなく、他の目的を設定することが大事だとレヴェルス氏は繰り返し述べる。創業者だけでなく、コミュニティ、都市等にいかに貢献していけるか。そして、成功を計測するための指標を複数設定することで、事業の成功を測ることが可能になる。スタートアップを通して社会に貢献することを目指してほしいという強いメッセージで講演は終えられた。

パネルディスカッション

本パネルディスカッションでは、「オープンイノベーションシティ大阪とは」と題して、講演を行ったニック・スタージ氏、ジェフリー・マクダニエル氏、エイジェイ・レヴェルス氏に大阪市経済戦略局の理事である吉川正晃氏が加わり、京都工芸繊維大学Kyoto Design Lab特任准教授であるスシ・スズキ氏をモデレーターとしてディスカッションした。

初めに、吉川氏から大阪と大阪イノベーションハブについての紹介があった。Hack Osakaをコーポレートスローガンとする大阪イノベーションハブは、関西地方でイノベーションエコシステムを作り上げることをミッションとしており、そのために大阪をオープンイノベーションシティにする活動を行っている。オープンイノベーションとは何か。「イノベーションとは、多様な才能や資源が地位、肩書、組織、国籍等の全ての境界を越えて出会い、結びついたときに起きる、社会に新たな価値を創造することだと考えています。」吉川氏は言う。大阪イノベーションハブは、大阪でのイノベーションをリードするネットワーキングインフラとなるビジョンを持って活動し、ハッカソンやピッチイベント等、年間200以上のイベントをほぼ毎日に渡って開催している。ネットワーキングインフラと多様性によって動かされるマーケットを提供することで、大阪をオープンイノベーションに向けて前進させている。

大きな拍手の後、パネルディスカッションが開始された。テーマは「都市」ということで、まずは元々港町だったブリストルが現在は多様化していることについて、何故このような変化が引き起こされたのかという質問がスズキ氏からスタージ氏に投げかけられた。

スタージ氏はこれに対して「必要に駆られたイノベーションというものを強く信じている。変化する必要があるなら、変化は起こせる。何かをクリエイトしていないならば、変化が必要ということ。」と前置きし、「私たちには貿易からくる巨額の富があった。何故貿易が減ったかというと、長い川があり、船が大きくなって川を航行することができなくなり、何か違うことをする必要が出てきた。それがきっかけだった。国際的なつながりから徐々に人口が多様化し、人々が異なるスキルセットを持ちイノベーションを進め、多様な部門が存在している環境が作られた。」と回答。

また、現在起きている変化をすすめているのは何かについても尋ねられ、「公的な資金の注入が減り、プライベートセクターが何かを引き起こすようになったことが一番大きな変化。また、政治に関しては市長選挙もあった。国の政府から地方政府への権限移譲によって、地域横断のイノベーションの機会ができた。」と回答した。また、都市が存在することが基礎になっている現状に対して、都市が変化の速度についていけない例もあり、ほぼ消えていることもあるが、どう考えるかという問いかけに対しては、スタージ氏は「ロンドンでも都市の拡大スピードは落ちているし、イギリスの都市の規模は小さくなっている。都市外部の課題はインターネットアクセスがないことで、それが解決できれば都市の有無に関係なく変化を起こすことはできる」と回答した。

次に取り上げられたのはピッツバーグ。他の都市と何が違いイノベーションシティーとなれたのかという問いが投げかけられた。マクダニエル氏は「ピッツバーグは元々職が集中している都市であり、強い労働倫理があった。鉄鋼産業が撤退した際に、長期に渡って多くの職が失われ、他の職を探す必要があったが、労働倫理によって、鉄鋼業から他部門への移行が促された。大学も成長して著名になっており、他の素材に焦点を移すことが可能だったため、違うタイプのビジネスが生まれた。また、ピッツバーグは都市再開発の例であり、鉄鋼製造業者がいた土地に今は研究、イノベーションが行われている空間が構築されている。私たちは空き地を見ると、次に来るものでそこを埋める方法を見つけるのがうまくなっている。」と回答した。彼はさらにスズキ氏の「大学はそのための変化を促進したのか?」という問いに対して「大学がピッツバーグに存在する産業と強く結びついていたことが一番変化を促進した。大学間の協力は増えていて、そのことでエコシステムが育っている。」と回答した。また、大学に引きつけられた若者が変化を促進しているかと問われ、「若者も興味深いが、年配の方々が重要だと思う。ピッツバーグは寒冷な気候にも拘わらず、リタイア後も住み続けてくれる人が多い。このため、家族や世代を超えた団結が今も根強い。」と高年齢層の重要性を強調した。

次はニューヨークについて。元々犯罪の街という印象があるが、1990年頃からシリコンバレーと競い合うテクノロジーの中心地となっており、この理由は何かという問いに対し、レヴェルス氏は回答する。「その通りで、1970年代のニューヨークは住むには難しいところで、人離れが起きていたのは事実。1970年代後半、1980年代前半に資本が戻ってきた。それに加えてニューヨークは常に金融の中心である点には変わりがなかった。また、出版、宣伝の中心でもあった。出版、宣伝業界はシリコンバレーで起こっていることを目撃していた。1990年代初期に、いくつかのテクノロジー企業が小さなオフィスをニューヨークに構え、実験をした。資金、宣伝スキルがあり、大量のプログラマーが存在していた。現在では多くの大学が力を伸ばし、テクノロジーや金融について学びに来る場所になっている。これはテクノロジー企業が多くニューヨークに進出している理由となっている。」

クールな都市というイメージが強く、都市レベルでブランディングされているが、これは、どれぐらいニューヨークの助けになったのかという問いに対しては、「ニューヨークは金融の次に広告業界が強いだけあって、ブランドイメージはすごい。日本の都市では必ず『NY』のロゴの入ったキャップをかぶっている若者を見かけている。彼らはニューヨークの場所すら知らないけれども、ニューヨークという名前は知っている。」と笑いながら語り、「NHKを利用するという話をしたけれど、ニューヨークはハリウッドとニューヨークのテレビドラマを利用して、ニューヨークのイメージを人々に伝えた。日本は同じアイデアを利用できるだろう。大阪ではもっとたくさんの映画やテレビ番組を取ることができるはず。京都も映画で有名だし、他の都市でもうまく映像を使った方がよい。観光目的だけではもったいない。」と提案をした。

これに対して京都の映画は主に時代劇だけれども、現代をテーマにした場合どんなドラマが撮れると思うかという問いかけに対しては「起業家の物語をする時がきたのだと思う。日本でスタートアップを経営する人たちの経歴や、物語を見たい。スタートアップのライフサイクルはとても短いが、必ずドラマがある。面白かったり、ときに悲しかったりするけど。」と回答し、さらに「私は宇治の周辺で茶畑を営む女性の漫画を作りたい。お茶の葉が彼女に力をくれて、国際展開するの(笑)」と笑いながら告白してくれた。

また、これに関連して吉川氏にも、大阪イノベーションハブをドラマ化したいかという質問が投げかけられた。「ぜひやりたい。スタートアップのドラマといえば、私は大阪生まれの大阪育ちで、大阪で創立された企業の物語が好きだ。関西には発明やイノベーションの例がたくさんある。ニックさんも自信について語っていたが、私たちが自信を持つため、この素晴らしい歴史をもっとみんなに伝えるべき。」との回答。さらに、「関西の人々にとって重要なのは、イノベーションのためのマインドセット。オープンでフレンドリーかつフラットなコミュニケーション。ビジネスを始めるときの言葉は『ようこそ!』『なんぼですか?』で、直接的でストレート。これはグローバルコミュニケーションと起業家精神にとって大事なこと。どう思いますか?」と関西の気質についてレヴェルス氏に質問を投げかけた。これに対し、「完全に同意する。そう言ってもらえて嬉しい。」と回答した上で、「大阪はこの直接的なコミュニケーション方法をモデルとして利用するべき。人に近づいて話すことは問題ない。」とレヴェルス氏は語った。

また、ここから発展して自信についても議論された。スシ氏は「アメリカに比べると他の国は自信がないように思えるということもあるが、日本人、特に私の教えている学生たちは特に自信がなくて他の人よりも自分を下に見ていると感じる。ブリストルでは自信をつけるために何をしたのか?」とスタージ氏に問いかけた。「私が言う自信というのは、人前でスピーチをするような自信ではなく、自分が正しいことをしているという確信のこと。自分がすることを信じること。そうすればオープンに話すことができるから。私のものごとに対するアプローチを紹介するが、私は物事を終わらせるのが得意ではない。だから、何かアイデアを思いついたら、途中までやってアイデアをシェアする。私は自分ができることとできないことに自信を持っているし、私は挑戦をするのが好きだから。すると誰か他の人がそのプロジェクトを完成させてくれたり、私がさらに進めることができるように何かしてくれたりする。これは都市レベルでは難しいが。ブリストルでは4つの大学が人々を機能的なレベルまで一緒に連れてくるので、これによってある種の自信が醸成される。私たちはお互い話し合い、共有する。私たちには忠誠と情熱がある。私たちは情報共有するので、同じことを言える。」との回答。また、マクダニエル氏は失敗の捉え方についてコメントをした。「失敗をもっと評価する必要がある。私たちは成功よりも失敗から多くを学ぶ。人々がオープンで失敗について話したがっているとき、他の人はより心地よいと感じるだろう。ある水準の信頼があって、支援的なエコシステムを創ることができる。」

さらに、失敗を共有することは難しいため、どのようにそれができるかについて質問が投げかけられた。

マクダニエル氏は「イテレーションのプロセスを採用している会社を創っていたが、そこでは失敗について考える機会があった。失敗の定義を変えて、ものごとが上手く進められなかった人を表彰する等するべき。失敗は次につなげるべき。」と回答。また、スタージ氏は「失敗についてメディアが報じるのを聞いたとき、失敗した人物と知り合いでない場合、その失敗は見下される。しかし、その人物と知り合いだった場合、『ああ、何か事情があったのかもしれない』などと言うだろう。そういったコネクションを作ることが大事。」とコメントした。

レヴェルス氏は日本の「もったいない」という考え方を取り入れることを提案した。「『もったいない』の考え方を利用して、失敗を再構築できる。あるアイデアを実現した場合の実験を行ったと考え、うまくいかないことがわかったということにすればよい。」これに対してマクダニエル氏は「ピボット」という表現を使い、失敗してもピボットのように少しずつ方向性を修正していくことを提案した。

スズキ氏から最後の質問が投げかけられた。「それぞれのスタートアップエコシステムに参入してきているのはどのような人々か?」 これに対してスタージ氏は「自身が支援している企業に大学卒業直後に入る学生は10%のみ。典型的な新規参入者は、30代以下よりも40代以上が多い。技術への深い理解と資金が必要だから。」と回答。また、「男性が多い。というのは、工学部卒業者の中で女性はたった10%だから。これは長期的な課題。」とも付け加えた。

これに対してスズキ氏からさらに「高い年齢層の人には家族がいて、若者の方がリスクを取ることができると考えている。40代以上はいろいろと背負うものがあるのでは?」という疑問が投じられた。

レヴェルス氏は「調査によると、ニューヨークではなりたてのママや自宅にいる女性の参加が多い。」と回答。また、「借金を負っていることが参入の大きな障壁となる。政府はそういった人を市場から締め出すよりも、受け入れられるよう何らかの手立てを打つべき」と述べた。

マクダニエル氏は「イノベーションには特別な共通言語があり、それを知らないと業界に入り込むのが難しい。これは年齢や性別によらない。女性の数にも転換点があった。必要なのは学術的な知識で、年齢、性別、人種とは関係がない。特定の人々について、いかに臨界点を超えるかが大事である」と述べた。

ディスカッションの締めくくりとして、各パネリストから若者へのメッセージが送られた。

まずはレヴェルス氏から。「あなたがもし学生であれば、アクセスさえできれば教授や企業を利用する信じられないくらいの機会がある。質問をノートにリストアップして、答えを求め続けなさい。質問を掘り下げることをおそれずに、新しい冒険につながる質問を追いなさい。」

次はスタージ氏から。「ネットワークを広げ、関係を築きなさい。人々を理解しようと努め、関係を築くこと。そうすれば、実験をする環境ができて、最初はうまくいかないことでも試しやすくなる。」

マクダニエル氏からは「すぐに思い浮かぶような大企業も最初はとても小さなところから始まった起業家だった。ある種のアイデアから始まり、そのアイデアを理解して、リスクを取った人から始まった。リスクを取ることを恐れないでいただきたい。」とのメッセージ。

最後は吉川氏からのメッセージ。「全ての見える、あるいは見えない境界を飛び越えて一緒に働こう。目標を達成しようとする意志がありさえすれば、境界を超えることができます。これはHack Osakaのコンセプトです。どんな制限も気にしなくてよい。『助けて!』と呼びかけること。恥ずかしいだとかそんなのは気にしない。これが大阪のDNAだから。オープンでフラットかつフレンドリーなのが大阪。リソースは豊富にあるので、何かを達成したければためらわずに周囲に助けを求めてよい。」

インターナショナル・ピッチコンテスト

多数の応募から選ばれた7か国10都市の起業家によるビジネスプランピッチコンテスト。今回のテーマはデジタルヘルス、トラベルテック、スマートシティ。Internet of things、インターネット、モバイル、ソフトウェア、デジタルコンテンツ、コンシューマーエレクトニクス(PDA、ロボット含む)のプロダクト、サービスなどネット・IT全般のビジネスを展開しているシード、アーリーステージの企業が登壇し、株式会社サンブリッジCEO兼Hack Osakaのスーパーバイザーであるアレン・マイナー氏、株式会社サンブリッジ平石郁生氏、Politemachinesのエイジェイ・レヴェルス氏、EngineshedのDirector、ニック・スタージ氏の4名によって審査が行われた。

  • 1. Mimi Hearing Technologies: Timur Emre氏(ドイツ、ベルリン)

    個人の耳の形に合わせたイヤホン
  • 2. At Co., Ltd.: Hiroki Okazaki氏(日本、大阪)

    毛細血管を健康の指標に
  • 3. Docquity: Indranil Roychowdhury氏(シンガポール)

    東南アジアとインドでドクターネットワークを構築。CMEのオンラインテストを提供
  • 4. Caption Hospitality: Larry Chua氏(インドネシア)

    long tail accomodationのための予約システム
  • 5. Hacarus Inc.: Kenshin Fujiwara氏(日本、京都)

    食改善による健康増進
  • 6. MARUI Plugin: Max Krichenbauer氏(日本、大阪)

    a Plug-in for Autodesk Maya, that let's you use HTC Vive and Oculus Rift to create your 3D Art.
  • 7. Cardiomo: Roman Belkin氏(アメリカ、ニューヨーク)

    心臓の不具合を検知するデバイス
  • 8. Timescope: Adrien Sadaka氏(フランス、パリ)

    セルフサービスVRターミナル
  • 9. Holiday-Sitters: Ela Slutski氏(オランダ)

    あなたの言語のベビーシッターを探すことができるアプリ
  • 10. PARKISSEO: Régis Duhot氏(フランス、トゥールーズ)

    駐車場の空き情報を通知するハードウェア
表彰式

まず初めに日本初開催となるハードウェアスタートアップの世界的ピッチコンテストとして同日サブ会場であるコミュニケーションアリーナで行われていたMonozukuri Hardware Cupの表彰式が行われた。本大会は2017年4月に米国ピッツバーグ市で開催されるHardware Cup 2017 Finalsの日本予選という位置づけであり、応募総数24社から選ばれた8社が参加していた。ピッツバーグ市でハードウェアスタートアップのアクセラレータと共に本大会の立ち上げに携わったジェフリー・マクダニエル氏がスピーチでハードウェアスタートアップの参入障壁の高さを説明し、サポートの大切さを訴えかけたのち、Makers Boot Campの共同創業者兼CEOの牧野成将氏から受賞者が発表された。銅賞はVAQSO社、銀賞がPLENgoer Robotics社、金賞がQDレーザ社に贈られた。副賞として、金賞にはピッツバーグ市で行われるファイナルズへの参加権、ANA社スポンサーによりニューヨークまでの往復航空券が、銀賞及び銅賞にはファイナルズのツアーへの参加権が贈られた。

Hack Awards 2017では、銅賞がMARUI Plugin社に、銀賞がHoliday-Sitters社に、金賞がDocquity社に贈られた。入賞者にはトロフィーと旅行券(銅賞:100,000円相当、銀賞:200,000円相当、金賞:300,000円相当)が贈られた。

以上

開催レポート2016