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中国・深センのイノベーション事情~「アジア友好都市交流プログラム」に参加して~

( 16年09月15日 )

中国のシリコンバレーとして世界から注目を集める街、「深セン」。その発展ぶりには目を見張るものがありますが、今、この街ではいったい何が起こっているのでしょうか?そして、そこにはどのようなイノベーション・エコシステムがあるのでしょうか?
その答えを見つけるべく、私達は「アジア友好都市交流プログラム」に同行し、深センを訪れました。実際に現地で見て、聞いて、感じた「深センの今」をレポートします。

1.シンセン市について知る

「そもそも深セン市ってどういう場所?」ということで、まず私達は、「深セン経済特区発展史」講座を受け、その概要についてレクチャーしていただきました。

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深セン市は、1980年に中国初の経済特区(Special Economic Zone(SEZ))に指定され、急速に発展した都市。当初は深セン市のうち南山区、福田区、羅湖区、塩田区の4区のみがSEZに指定されていましたが、2010年には市内全域にまで拡大されました。また、中国内でSEZに指定された都市・地域は全部で5つありましたが(深セン、珠海、汕頭、廈門、海南省)、経済特区として成功したのはここ深センだけだったようです。深センの発展はめざましく、ICT企業のファーウェイやwechatのテンセント、ドローンのDJIなど、多くのスタートアップが誕生しました。
2015年の深セン市のGDPは、現在1兆7,500億元で、前年比8.9%の増加。この36年間でなんと7,383倍にも成長しました。年々賃金も上がっており、物価も上昇しているようです。

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2.大学のスタートアップ育成事情を知る

2-1.深セン大学

1983年に創立された深セン大学は、現地では言わずと知れた起業家輩出大学。学部生だけでも約27,000人を誇っています。「深センと共に成長する。イノベーション及び起業人材の育成。」というミッションを掲げ、事実、卒業生の85%が深センで就職または起業しています。
今回は、そんなシンセン大学の図書館や科学技術棟を見学させていただきました。

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科学技術棟の屋上からは、深センの街並みを眺望することができます。深センには至る所に建設中の高層ビルがあり、街が放つ熱量を肌で感じることができました。また、広大な大学の敷地内には熱帯林が茂っており、道路には溢れんばかりの街路樹があるため、空気は澄んでおり、計画的に環境に配慮した街づくりを行ってきたのがうかがえます。

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また、見学当日に食堂でやっていた「餃子作り体験」イベントにも参加させていただきました(笑)!

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深セン大学にはインキュベーション施設もあり、学生の起業に毎年200万元(約3,400万円)を投入しています。現在まで166チームが生まれ、20社が上場を果たしました(インキュベーションに入った学生はほぼ全員が起業)。
当施設は今改修されていて今回は見学することができませんでしたが、新しく建てられる施設は1階が共同オフィス、2階がメイカースペース(ハッカソン空間)となり、2016年9月に完成予定。
この改修によりスペースを広げることに加え、深セン大学の周りには多くの民間インキュベーションがあるため、2016年5月までに30のインキュベーションと連携(契約)し、深セン大学の学生であれば大学が全額補助することにより、半年~1年間、無料で入居可能となる予定。また、アップル社と連携し、同社のスタッフが講義を行うというプログラムも予定されています。

2-2.清華大学の「深センインキュベーション」

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インキュベーション施設を持つのは深セン大学だけではありません。精華大学も深セン市と共同で「深センインキュベーション」を設立しています。これまでトータルで2,920人の卒業生を輩出し、同校には昨年の国際的ピッチコンテスト「STAR」で1、2、4位を受賞した学生もいます。また6月下旬には同校最高額となる30億円超の投資を受けた学生もいるそうです!
所内にはグループごとにデスクが割り当てられ、それぞれが開発を行っていました。また、設置されている3Dプリンターは、樹脂はもちろん、セラミックスで1m四方のものを制作できるものもあり、最新の技術が用意されている様子。清華大学は、国内だけでなく、アメリカやフランス、ドイツ、イスラエルなど、海外の大学とも様々な形で連携を進めていて、日本についても既に京都大学と共同研究などを行っています。

3.新進気鋭のベンチャー企業を知る

3-1.DJI社

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ドローン分野で現在急成長中のベンチャー企業「DJI」を訪問し、展示施設を見学させていただきました。DJIは2006年に深センで設立、この10年間で、従業員は20人から5,000人へと成長。DJIの一般向け空撮ドローンは全世界で70%のシェアを誇っており、市場も深センから世界100以上の国・地域へと広がり、中国企業を代表する存在となりました。またDJIの製品は、映像、農業、不動産、ニュース報道、消防、救援、エネルギー、リモートセンシングによる製図、野生動物保護などの分野で広く用いられており、今も新しい分野へ挑戦を続けているそうです。

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3-2.テンセント社

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次にテンセント社を訪問し、事業PRフロアを見学させていただきました。テンセントは1998年に深センで設立されたIT企業で、中国人のほとんどが利用している「WeChat」というメッセンジャーサービスを展開。また、ゲーム事業の売上高ではソニーやマイクロソフトを上回って世界トップの座を築きました。提供している複数のメッセンジャーのMAU(月間アクティブユーザー数)の合計は11億人超に達しています。
本社オフィスは5階ぐらいまで中央部が吹き抜けになっており、事業PRフロアになっている2階では、リアルタイムに地図上にメッセンジャー利用者の位置がプロットされるモニターがあり、その時は2億人以上の利用者がプロットされていたため、まるで中国の地図をそのまま表しているかのようでした。

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テンセントの従業員数は28,000人、平均年齢は29歳と非常に若い企業ですが、研究開発部門の従業員数の割合はうち約50%となっており、新製品・サービスを生み出すことに重点を置いていることがうかがえます。
中国ではLINEやFacebookを利用できないという環境も影響して、「WeChat」は多大な支持を受けており、実際に今回のプログラム中に知り合った方たちとの連絡先の交換は「WeChat」で行われていました。さらに「WeChat」では、水道光熱費などの公共料金の支払いも可能。名刺交換の際はもちろんのこと、売られている製品の紹介用として「WeChat」のQRコードをいたるところで見かけました。まさに、中国人の生活に「WeChat」が溶け込んでいるという感じです。

4.スタートアップ支援機関・施設を知る

4-1. STEA(Shenzhen Technology Entrepreneurship Association)

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スタートアップ支援のために、地方政府とともに行政や産業、大学の研究機関等を繋げるエコシステムの形成をめざすSTEA(Shenzhen Technology Entrepreneurship Association)を訪問。同組織が企画する国際的ピッチイベント「STAR」についてオリエンテーションをしてただき、その後OIHとの今後の連携について意見交換を行いました。そしてこの意見交換会をきっかけに、OIHで「STAR」の日本予選を実施することが決定!
詳細はこちら

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「STEA」に併設されているインキュベーション施設「We Young」も見学。入居費用は1,600元(27,000円)/月ほどで、入居期間は1年間だそうです。現在は約400名が在籍しており、入居者の平均年齢は25歳と、まさにこれからの世界を担うスタートアップが集っています。

 

4-2.ハードエッグ

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ハードエッグは2013年、Cogobuyグループ(香港)の一つとして設立されたイノベーション支援機関。約1万のIoT関連プロジェクトをネットサービス企業や販売チャネル、メーカー、投資家、インキュベーターなどとコネクトしています。

5.世界への入口を知る

5-1.深セン市工業展覧館の見学

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1985年に開館し、深センの産業政策の広報施設となっている深セン市工業展覧館。ここには様々な産業製品などが展示されており、市民や学生のための愛国心教育の礎となっているそうです。同館にはこれまで100以上の国と地域の方が訪れ、深センの産業経済と世界とを繋ぐ懸け橋となっています。

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5-2.APEC中小企業展覧会

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2年に1回開催されているAPEC中小企業展覧会。開催前夜までの準備状況ではこのままで本当に開催されるのか?という不安がありましたが、当日はどのブースもしっかり設置されていました!OIHもブースを置かせていただき、投資関係の方などから興味を持っていただけた様子。

5-3.華強北商業区の見学

世界最大の電気街である「華強北商業区」も見学。画像がなくて申し訳ないのですが、この場所の雰囲気を一言で表現すると、日本の「秋葉原」の規模をもっと大きくしたような街という感じです。エリアの広大さと店舗数、取り扱っている商品の豊富さは圧巻でした。商業ビルが20棟以上あり、どれも5階以上の高さで、各フロアに10~15㎡ぐらいの店舗がひしめきあっており、おそらく数千の事業者がこの一帯に混在していると思われます。パーツ(電子部品)を販売している店舗が多いようですが、各店、まるで倉庫のように電子部品がたくさん陳列されていたのが印象的でした。
 

 


「イノベーション」という言葉で真っ先に連想される地は、アメリカの「シリコンバレー」。しかし、今やイノベーションが起こっているのはシリコンバレーだけではありません。

事実、深センは行政自体がイノベーション創出に力を入れて取り組むようになり、特にものづくりにおいては、深センだけでもサプライチェーンが完結する環境が整っているのです。また、各大学では年次の若いうちから学生のアントレプレナーシップ醸成が行われ、起業支援のための各種サポートも実施。さらには、起業に成功した卒業生が大学に寄付し、その資金が次世代の起業家支援に充てられるという、若手起業家を輩出するためのエコシステムもすでに確立されています。

シリコンバレーに台頭し、深センが「世界のイノベーションの聖地」となる日は、そう遠くないかも知れません。

レポート作成者:金井 容秀、坂田 総司朗
編集:EDA MAMI


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( 16年09月15日 )
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