Innovators

ヒトの動きを感じる技術で、世界をつなぐ

( 13年04月22日 ) 柴田氏

国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 | 准教授 柴田 智広 氏
1996年東京大学大学院工学系研究科を修了、博士(工学)。日本学術振興会、科学技術振興事業団の研究員を経て2002年より奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科助教授(現准教授)。ヒト・シャカイの計算論的理解やそれに基づいた支援に関する融合領域研究を推進。

きっかけは母の介護

ダウン症の人に15年以上にわたり奈良県奈良市富雄にて音楽療法を行ってきた水野恵里子氏(学術博士)と一緒に、私は2011年に「NPO法人アゴラ音楽クラブ」を起ち上げました。Kinect(キネクト: Microsoft社の深度センサ.体の動きを検知して自然インタフェースとして用いるためのセンサ.本来はゲーム用であったが、低価格のため全世界で様々な応用が模索されている)を用い、音楽療法における障害者の演奏能力の向上などを科学的データに基づき分析し、エビデンス・ベーストな音楽療法を確立しようと活動しています。障がい者を対象としたこのような活動は、マーケット的に成立しにくいため企業参入がありません。Kinectのような安価で高性能な装置を健常者のゲームにだけ使うなんてもったいない、研究者の有志が始めるしかないと考え、NPO法人を起業し、その他ビジネスモデルを検討しているところです。実は、私がこのような分野へと足を踏み入れるきっかけは母でした。15年以上パーキンソン病を患っており、以来数年前まで、私が介護してきたので、介護の大変さは身をもって体験しています。医療・介護の様々な現場を見る機会に恵まれたわけです。

在宅医療・介護の現場へICT/RTでアプローチ

日本は在宅医療に重点を置く政策を取っていますが、それを支える介護現場では、人員不足が大きな問題で、来年には40万人の介護職が不足するという厚労省の予測もあります。低収入・重労働なために離職率が高いことなど数々の問題があります。まず介護職の待遇を改善すべきですが、介護保険という一定の財布で回している以上難しい。ならば、日本の得意分野であるICT(情報通信技術)、RT(ロボット技術)で解決すれば良いじゃないかと考えました。在宅医療・介護の現場の情報を継続的にデータベース化し、医療機関へその要約を届けることができれば、診療時間をあまり変えずに診断の質を上げることができます。

現場の生の声をSNS的な方法で集約すれば、便利なアプリケーションや介護用具、ロボットなどの開発に役立てることで、現場へフィードバックできます。その例として、 Webアプリケーションを試作し、全国パーキンソン友の会奈良県支部の協力を得て改善を進めています。また、Kinectを使って誰でも簡単に姿勢情報を記録できる装置を開発し、協力機関などに配布し、医療・介護への活用を現場と一緒に試みています。さらに、私の研究チームでは、2011年の暮れに着衣支援ロボットを発表しましたが、今後は現場の着衣支援(介助)手技の定量化や生の要望を集約して研究開発に反映させたいと考えています。

脳科学をマーケティングへ

ヒトが実店舗で行う購買意思決定過程を脳科学や情報コミュニケーション技術で明らかにし、ひいてはマーケティングに応用しようという研究も行っています。実店舗で一般客に対して、コミュニケーション用ロボットを置いて実験経済学的実験を行ったり、実験参加者にNIRS装置と眼球運動計測装置を装着してもらい、商品選択実験を行ったりしています。
ここでも顔の向きや姿勢の認識・記録にKinectを活用しています。これまでに顧客によるコミュニケーションや顔の向きの情報を用いることで,選択しそうな商品を予測するだけではなく、商品の選択結果を変えたりできることが少しずつ分かってきています。NIRS装置を用いることで、大脳の皮質活動計測が原理的にはラボ外で可能となります。しかし実際にはいろいろと問題もあるので、一つ一つクリアしながら脳科学をビジネスや社会変化に役立てることができればと研究開発をしています。

留学の壁となっている「4月入学」と「日本語主義」を改善しよう

インド留学生と私はインド工科大学ラジャスタン校で客員教員をしており、毎年学部生数名をインターンに招聘しているのですが、昨年秋には初めて留学生が来てくれました。この優秀な留学生は、早速Kinectを使って着衣支援ロボットシステムの改良に貢献しています。奈良先端科大では、情報科学研究科では近年国際コースが設置され、英語の授業のみ履修して修士号が取得できるため、日本語ができない海外の学生獲得に良い環境です。ところで,優秀なインドの学生が欲しくても、日本流の「4月でよろしく」だとインドの大学の年度進行上無理なんです。

幸い、奈良先端大では創立当初から秋入学を実施しているので,これも問題になりませんでした。もし企業側が大学に優秀な海外の学生をもっと増やして欲しいということであれば、秋入学の奨学金制度を用意してくれればどんどん呼び込めると思います。現在心配しているのは、彼らの就職先です。修士号は英語のみで取得できますが、いざ就職先を探そうとなったとき、日本語が話せなければ日本国内の就職先がとても少ない。彼らは日本が好きで来てくれたのに出口の見通しが悪い。彼らは学内の日本語の授業には通っていますが、就職に役立つレベルにはほど遠い。日本企業には、非常に優秀な留学生をぜひ生かして欲しいので、例えばこの部署は英語中心で行くとか、通訳を置くといった措置をもっと行ってもらえればと思います。それもひとつのグローバル・イノベーションではないでしょうか。

( 13年04月22日 )
  • ※ 最初は大阪イノベーションハブが間に入らせていただきますが、最終的にはプレイヤーの判断によりますので、
    必ず連絡がとれるとは限りません。ご了承ください。
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