スタートアップで働く人

黒瀬 康太 氏

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「企業は人が作る。」スタートアップが成長する過程において起業家は多くの仲間と出会い、共に長い道のりを歩みます。スタートアップで働く人は、どのような経緯で企業にジョインしたのでしょうか。

一人一人に焦点を当てるとそこには様々なご縁で繋がった、イキイキと輝きながら働く姿がありました。

「はやい、やすい、巧いAI」で
中小製造業の課題を解決する
【前編】「AIの民主化」をめざして共同創業

黒瀬 康太 氏 / 取締役 COO(最高執行責任者)

株式会社フツパー(2020年設立)
在籍年数 1年8か月
https://hutzper.com/
製造業向け画像認識エッジAIサービスの提供

目視による品質管理をAIが支援し、生産性を向上させる

製造業において、不良品を検知して取り除く工程は、品質を管理するうえで欠かすことができない。そのための手法としていまも広く実施されているのが、人の目による検査、すなわち「目視」だ。

しかし目視には、業務を習熟するのに時間がかかる、人の力に依存するため見逃しのリスクをゼロにはできないといった課題がある。さらに労働人口が減少しているいま、目視を担える人材の確保が難しくなっているという現実も。これらの課題に対応すべく、センサをはじめとした検査機器の活用が行われているが、これにも問題があった。

「センサは、大きさや色、形、位置など、要件を定義してそれに合致しないものを不良品として見つけ出します。これは金属製品など、完成した品物の定義を明確にしやすいものには適しています。ところが、良品として認められる品物の定義づけが曖昧にしかできない製品では、センサは活用が難しいのです。代表例は食品です。色や形では、はっきりと良品・不良品の線引きが難しい。そこで、人のようにさまざまな情報を加味して総合的に判断する力を備えた、AIの出番なのです」

そう教えてくれるのは、製造業向けの画像認識エッジAIサービスを開発・提供する株式会社フツパーで、取締役/COOを務める黒瀬康太氏だ。

同社は、「はやい、やすい、巧いAIを」というスローガンを掲げている。AIはさまざまな分野で導入が進んでいるとはいえ、価格が高く、利用できる企業は限られてしまっている。しかし、人手不足や目視検査の効率化という課題は、中小企業が抱えていることが多い。

そこで同社は、エッジAIという仕組みを用いることで低価格化を実現。徹底的に中小製造業の現場に入り技術開発をすることで、研究室レベルではなく「現場で本当に使えるAI」を開発した。

「月額の利用費用は、目視検査を担当する従業員1人の賃金と同水準に設定しています。つまり当社のAIによる目視検査は、設備投資ではなく、AIという従業員を雇用するようなものなのです。採用や教育、保険など人材に関するさまざまな負担や、先行きが不透明ななかで設備投資を行うリスクを考えると、当社のサービスは非常に使い勝手がいいと言えます」

このようなビジネスとしての組み立てを考えることは、黒瀬氏の役割の1つだ。マーケティングをはじめ、営業、さらに代理店の開拓などビジネスサイド全般の業務を受け持っている。

営業活動では、黒瀬氏自身も顧客企業の製造現場に足を運び、実際の目視検査の様子を確認する。そのうえで顧客やエンジニアと議論し、ソリューションとなるサービスを作り込んでいく。「自分たちが自信をもって『いいもの』と思えるサービスを開発し、喜んでもらえることがおもしろいですね」と、仕事の醍醐味を語る。

「一緒に駆け抜けたい」と思える仲間とともに創業

黒瀬氏は広島大学工学部出身。代表取締役/CEOの大西洋氏とは同学部の同級生で「入学して2日目からずっと友人」という間柄だ。大学を卒業後は日本IBMに入社し、営業として企業へのAIソリューション導入を支援してきた。

「当時担当していたAIソリューションには、多くの企業が興味を持ってくれました。しかし、費用の問題で実際に導入できるのは一部の大企業に限られていました。一方で、導入を断念した企業の話を聞いていると、非常に切実な課題を抱えていることがわかりました。『中小企業こそ、AIを活用すべきだ。そのためには、低価格で利用できるAIサービスが必要だ』という思いが、徐々に膨らんでいきました」

このような課題感や最新の技術動向について、黒瀬氏は機会があるごとに大西氏と話し合っていたという。そんななか、大西氏が画像認識AIをエッジコンピュータに乗せることで、処理のスピードアップと低価格化を実現する技術の開発に道筋を立てた。大西氏はこの技術の事業化に向けて、黒瀬氏を誘った。

「彼(大西氏)と一緒にやればうまくいきそうだという思いはありました。それはやはり、大学時代から彼の人となりを知っていることが大きな要因です。また、社会人になってからお互いが経験して感じてきた課題意識や、その先に見つめる解決像を共有していたことも、共同で創業しようという思いを後押ししました。スタートアップですから結果はどうなるかわかりません。それでも、『彼となら走り続けられる、駆け抜けられる』と思えたことが、起業の決め手でした」

左から黒瀬氏、代表取締役兼CEOの大西氏、取締役兼CTOの弓場氏

このとき、両親は「やりたいことならやればいい」と背中を押してくれた。職場の上司や先輩は起業することへのリスクを心配し、引き止めてくれたが最後は応援してくれた。

黒瀬氏は「時間が経てば経つほど、新しいことを始めるには腰が重くなる。やるなら早いほうがいい」と考え、起業に踏み切った。

涙を流してともに喜ぶ体験が、社会人になってもできる

前職で感じていた課題を解決し、中小製造業者を支援したいという目標の実現のために起業した黒瀬氏にとって、現在の仕事はやりがいやおもしろさにあふれたものだ。頑張りが目に見える形となって現れやすいのもスタートアップならではの魅力だと黒瀬氏は言う。

「創業時は、もう1人の共同創業者である弓場(※)と3人で住居兼オフィスとして一軒屋を借り、共同生活をしていました。事業が起動に乗るときちんとしたオフィスを構えられるようになり、仲間も増えました。そういった変化がすごく嬉しいです」

一方で、人も資金も制約されており、1人で何役もこなさなければいけないのもスタートアップならでは。営業のかいがあって顧客と契約にたどりついたとき「ところで、契約書はどうやって作ればいい?」と立ち止まってしまったこともあったという。このときは経済産業省が定めている契約書のガイドラインを読み込み、なんとか自力で作成した。

また創業当初は、プリンターの費用を抑えようとセール品を探し回り、少しでも安く文具を購入するため10円単位でネットショップを比較した。

2021年10月には関西発の有望なスタートアップとしてJ-Startup KANSAIに選定された

「会社員時代から、顧客企業の経営のことを考えて提案をしているつもりでした。でも、起業してみると、まだまだ考えが足りていなかったことに気づきました。備品代の節約まで含めたさまざまな努力を積み重ねて、収益が生まれるのです。そういった経験をしたからこそ、オフィスが大きくなることや仲間が増えることが、ひと際嬉しく感じるのかもしれません」

黒瀬氏と大西氏、弓場氏は学生時代からの友人ということもあり、経営やサービス開発をめぐっては遠慮なく意見をぶつけ合っている。

その風土は社内にも広がり、メンバー間で議論が交わされることもよくあると言う。だからこそ、議論の末に導き出した答えが成果に結びついたとき「涙が出るほど嬉しいです」と笑顔で語った。

「当社はとにかく熱い会社です。壁にぶつかって、それでも協力して、一緒に困難を乗り越えていくという日々は、歳を重ねるごとに忘れていった、何かに本気で熱中するという気持ちを持ち続けることができます。社会人になってもこんな体験ができることは、たまらなく幸せなことだと思っています。これからも熱い思いをもって取り組み、中小製造業者、ひいては日本社会の課題をAIを使って解決していきたいです」

※弓場 一輝 氏 取締役/CTO
黒瀬氏、大西氏と同じく広島大学出身で、2人よりも1学年下だが学生時代からの友人。

スタートアップへのイメージ

<Before>

  • ●キラキラしてかっこいい(大学時代)
  • ●事業の中身が大切(会社員時代)

<After>

  • ●泥臭い仕事の積み重ね
  • ●最高に熱くなれる楽しい環境

自社のイイトコロ

当社のメンバーは、メンバーそれぞれがプロフェッショナルです。高い専門性をもっているうえに、全力で仕事に取り組み、ガッツにあふれています。「泥臭く最新技術を届け、現場をスマートに」という当社のミッションを、誰もが自分事として受け止め、ぶれることなく実現に向かって前進することが強みです。

スタートアップで働こうと考えている人へ

新しいものを作りたい、経営に携わりたい、あるいは将来は起業したいといった思いがある人には、スタートアップの中でもできるだけ早いステージにいる企業がお勧めです。ステージが早ければ早いほど、社内体制づくりなど、将来の経営のコアとなる業務に関わることができるからです。スタートアップは、1年で状況が大きく変化していきます。1か月で変わることすらあります。興味あるスタートアップがどのステージにいて、そのステージは自分のやりたいことやめざしたいこととマッチしているかを見てみるといいでしょう。

スタートアップで働こうと考えてる人
スタートアップで働こうと考えてる人

2021年12月3日取材

(文:松本守永)

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