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スタートアップで働く人

稲田 昌平 氏

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「企業は人が作る。」スタートアップが成長する過程において起業家は多くの仲間と出会い、共に長い道のりを歩みます。スタートアップで働く人は、どのような経緯で企業にジョインしたのでしょうか。

一人一人に焦点を当てるとそこには様々なご縁で繋がった、イキイキと輝きながら働く姿がありました。

正直に、自信を持って向き合える仕事で
世の中の課題を解決したい

稲田 昌平 氏 / Business Development 事業開発担当

mui Lab株式会社(2017年設立)
在籍年数:2年
https://muilab.com/ja/
・UX/UIデザイン
・SaaSソフトウェア開発
・自社プロダクト開発、販売
・コンサルティング

mui Labが掲げる「カーム・テクノロジー&デザイン」とは?

総務省の令和3年版 情報通信白書によると、世界には人口の3倍を超える約253億台のIoTデバイスが存在する(※1)。その数は増加の一途をたどり、現代人は機器に囲まれて生活しているといっても過言ではない。その分、生活が便利かつ豊かになっているともいえるが、人間が本来、自然とともに暮らしてきたことを考えると、どこか違和感を覚える人もいるだろう。

そんな現代に向けて提唱された「カーム・テクノロジー(Calm Technology)」という概念をご存じだろうか。「ユビキタスコンピューティング(いつでもどこでも情報にアクセス できる環境のこと)」の概念を生み出したサイエンティスト、マーク・ワイザーが提唱したもので、人間の自然な生活環境を阻害しない、<生活に溶け込む情報技術>を表す設計思想だ。この思想に日本的な所作や習慣、文化的なエッセンスを融合させた『Calm Technology & Design』をコンセプトに、唯一無二のソリューションを提供しているのが、2017年に京都で生まれ、2020年にはJ-Startup KANSAIに選定された注目のスタートアップ、mui Lab株式会社(以下、mui Lab)だ。

天然木の表面に文字が浮かび、タッチパネルとして機能する『muiボード』をはじめ、革新的なプロダクトやサービスを提供している。近年はハウスメーカーとタッグを組み、家族の絆を深める独自視点のスマートハウス『muihaus.』を開発したり、エネルギー系の企業向けに電力不足などの課題を解消するためのITソリューション『mui DRシステム』を提供したりと、活躍の幅を広げつつある。

「初めて『muiボード』を見たとき、“これはユーザーのことをちゃんと考えて作ったプロダクトだ”という安心感のようなものを感じました」

そう語るのはmui Labに入社して2年になる稲田昌平氏。現在は事業開発担当として、同社が持つ技術とノウハウを活用してビジネスを生み出す重要な役割を担っている。稲田氏がmui Labにジョインした背景には、“本当に良いものを、自信を持ってお客様に提供したい”という思いがあった。

※1総務省の令和3年版 情報通信白書 補論 デジタル経済の進展とICT市場の動向 P17「IoTデバイスの急速な普及

大企業で味わった虚無感と、憧れのゲーム業界で知った現実

大学卒業後、稲田氏は新卒で大手印刷会社へ入社。営業部に配属され、国内外の液晶パネルメーカーなどに液晶部品を販売する業務に携わる。販売した部品は最終的にテレビやスマートフォン、カーナビなどのディスプレイとなるが、実際にそれらを使うエンドユーザーは稲田氏にとって遠い存在だった。

「自分が納めた商品に対してユーザーの声が返ってくるわけでもなく、ただ部品を作って決まったお客さんに納める、という日々でした。当時の私にとっては、ただ物を運んでいるだけ、というのが実感です」

さらに、当時のディスプレイ市場は縮小傾向にあり、受注の減少とともに職場の雰囲気も暗くなっていく。ユーザーの顔が見えず、仕事を求めて営業先を必死で走り回る毎日…。この環境に先を見通せなくなった稲田氏は、新しい環境でチャレンジしようと決心をする。

次に稲田氏が飛び込んだのは、ゲーム業界だ。もともと趣味でゲームを作っていたこともあり、本格的にスキルを高める決心をする。向かったのは、北欧のデンマークだ。

「当時、ヨーロッパで個人がゲームを作る動きが活発になっており、特にデンマークにはコミュニティもたくさんあって、イベントも数多く開催されるなど、市場が拡大していたんです。ワーキングホリデービザを使って現地に飛び、ゲームクリエイターたちとチームを組んで開発をスタートさせましたが、予想外のことで、この挑戦は終わってしまいました」

稲田氏がデンマークに飛んだのは2019年の暮れ。その直後、世界が新型コロナウイルス感染症によって一変したことは記憶に新しい。

「ゲーム開発をしている場合ではなくなり、メンバーの仕事もだんだんと減り、チームは解散しました。ロックダウンの影響で、私は国境の封鎖で帰国できなくなる可能性もあったので、その前に帰国を決めました。短期間でしたが、国や文化が異なるメンバーと意見を出し合って1つのことに取り組めたのは良い経験でした」

日本に戻ってからもゲーム業界での挑戦をあきらめきれなかった稲田氏は、友人の紹介でゲーム会社に就職した。プランナーという立場で、いわゆるネットゲーム、スマホゲームのコンテンツを考案し、エンジニアやデザイナーと一緒に商品化していく仕事だ。まさに自分のやりたかった仕事に就いた稲田氏だが、ここで、その後のキャリア観を左右する大きな悩みを抱えることになる。

ネットゲームの収益源は、プレイ中のさまざまなアイテムや権利と引き換えにユーザーに対して行う<課金>だ。このビジネスモデルに対して、稲田氏は徐々に罪悪感を覚えるようになっていったという。

「コンテンツの考案では、自分たちが考える魅力的なゲーム体験より、あの手この手でユーザーの競争心や購買意欲を掻き立てるものが優先されました。そのやり方が私には合わず、だんだん仕事に向き合えなくなっていきました」

仕事への向き合い方で悩んでいた稲田氏は<ユーザーに対して、正直に自信を持って売れるもの>を探すようになる。そこで出会ったのが『muiボード』だった。

すぐれたプロダクトと<京都>への思いが両者を引き合わせる

新卒で入社した大企業、憧れだったゲーム業界、それぞれで壁にぶつかった稲田氏は、まったく新しい分野でチャレンジしようと、スタートアップに興味を持つようになっていた。そして、スタートアップに関するさまざまなニュースを発信するWEBサイトを見ていたときにmui Labを見つけたという。

一目見て、“これを売る仕事がしたい”と思った稲田氏は、ホームページのお問い合わせフォームから代表取締役の大木和典氏へメールを送った。

「内容はあまり覚えていませんが、“ぜひとも参加したいので、働かせてください”みたいなメールだったと思います。当時のmui Labはコロナ禍で事業方針をどうするか悩んでいた時期だったので、人を積極的に採用している状況ではありませんでした。でも大木からは“一度、面談しましょう”と返事が来て、たまたま京都に営業スタッフが不在だったこと、私にゲームプランナーとしてプロジェクトを統括する経験があったことで、採用が決まりました」

代表取締役社長CEOの大木氏と

稲田氏とmui Labを結び付けたものは、『muiボード』というすぐれたプロダクト以外に、もうひとつの要素がある。それは<京都>という土地への思いだった。

「私は生まれも育ちも京都とは縁がないのですが、なぜか京都という場所には安心感があるんです。mui Labは京都の街が持つ<佇まい>から影響を受けており、プロダクトの設計思想やめざす世界観には共感できる部分がたくさんありました」

晴れてmui Labの一員となった稲田氏は、さっそくプロジェクトマネージャーを任されるなど、即戦力として活躍を始める。しかし、当初はコミュニケーションの部分で苦労も多かったという。

「ここには特定の分野のプロフェッショナルが集まっているので、メンバーそれぞれのバックグラウンドが全然違うんです。だから、お互いの言いたいことがうまく伝わらなかったり、思うように仕事が進まないこともありました。この解決策としては、やはりひたすら聞くしかない。相手が何を求めていて、どういう状態でボールを渡してほしいのか、とにかく耳を傾けることで仕事が回り出したと思います」

“本当にお客様が喜ぶものを提供したい”が仕事のモチベーション

現在、事業開発担当として、さまざまなプロジェクトの立ち上げやマネジメントを担う稲田氏。mui Labでの仕事の魅力について次のように語る。

mui Labはラスベガスで開催される世界最大のテクノロジー見本市CESに出展し2度目の「CES Innovation Awards 2022」を受賞した。

「お客様が持つ課題や要望に対し、mui Labは独自の価値観で提案したり膨らませたりできるんです。お客様も“それは思いつかなかった”とか、“お願いしてよかった”と言ってくださるので、やりがいを感じています」

「以前、『京都の町屋をスマートホーム化する』というプロジェクトがありましたが、土地や建物の歴史的背景からストーリーを作り、それらを独自のUI・UXに落とし込んで提供したところ、とても喜ばれました。メンバーそれぞれのスキルを組み合わせた提案によってお客様に喜んでもらえる。仕事をしていて、これほど嬉しいことはないですね」

“ユーザーにとって本当に良いものを売りたい”という思いでキャリアを模索してきた稲田氏は、今mui Labでその夢を実現しつつある。大切にしているのは、<仕事に対して正直でいられること>だ。

「前職で辛い思いや納得いかないことがあったので、自分が正直に仕事に向き合えているか、よく考えるようになりました。良いものをお客様に提供して、良い体験をしていただく。それを実感することで、働いていて良かったと思えるんです」

「会社が成長することは大事ですが、お客様やユーザーのことを想像せず、ただ儲ければいいみたいなビジネスはあまり考えたくないですね。真摯に仕事に向き合っている仲間たちと一緒にお客様の課題に取り組み、お客様が喜ぶプロダクトやサービスを提供し、その結果として会社が大きくなるという過程が大事だと思います」

そう語る稲田氏の目は、仕事に対する正直な姿勢と、「本当に良いものを提供している」という自信に満ちていた。

スタートアップへのイメージ

<Before>

  • ・何となく優秀な人が集まっているイメージ
  • ・大企業よりも自由度が高い

<After>

  • ・さまざまな分野のプロフェッショナルが集まっている
  • ・自由な分、すべては自分次第

自社のイイトコロ

mui Labには多様なスキルを持ったメンバーが集まっていますが、誰もが“ユーザーの体験や暮らしを良くしたい”という熱意を持っています。考え方が違っても、お互いを理解しあう環境なので、多様性が生かされ、結果的に他社にはない独自の提案を生み出せるのが強みです。

スタートアップで働こうと考えている人へ

今、自分が働いている意義が見出せない、という悩みを持っている人は、ぜひスタートアップで働いてみることをおすすめします。限られたリソースの中で色々な仕事をしないといけない、という責任感がありますし、責任感があるからこそ自分が働いている意義がおのずと見えてくると思います。「大企業だから」「スタートアップだから」といった先入観は捨てて、ぜひチャレンジしてみてください。

スタートアップで働こうと考えてる人
スタートアップで働こうと考えてる人

2023年3月2日取材

(文:福井英明)

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