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起業家ライブラリ

濱田 浩嗣 氏

スリップ事故を防ぐ駆動制御で、月面でも活躍できる電動バイクの開発に挑戦

濱田 浩嗣 氏

代表
会社名RIDE DESIGN
ウェブサイトhttp://ridedesign.web.fc2.com
事業内容・“機能美”と“楽しさ”を融合した、ロボット、モビリティ、家電、スポーツ用品等のプロダクトデザイン&ブランディングのトータルデザインを提供
・デザイン & モノづくり教育の推進。モータースポーツ文化 & 交通教育の推進。
・HAL大阪 カーデザイン学科 講師、大阪ハイテクノロジー専門学校-AIロボット学科 講師
・転ばない電動バイク/ EV MOTO 開発PJ & お菓子の家づくりワークショップ推進中

スタイリッシュで転倒しない電動バイクの開発プロジェクトを推進

「今、SDGsやCO₂排出量削減への取り組みのなかで、電動モビリティが注目を集めています。そのなかで、高い機動性と軽快なハンドリングに優れた二輪車の普及が遅れているのは、魅力的な電動バイクがないからだと思っています」

そう話すのは、デザイン制作事務所「RIDE DESIGN」代表の濱田氏。自らの経験を活かして理想的な電動バイクを追求するプロダクトデザイナー兼オートバイのレーシングライダーであり、デザイン専門学校のカーデザイン学科やロボット開発学科で教壇に立つ講師でもある。

2021年12月に、ICT分野に特化したピッチイベント、「ミライノピッチ2021」で発表した「転ばない電動バイク/ EV MOTO 開発PJ」が、一般部門で賞を受賞。日米合わせて年間10万件も発生するオートバイのスリップ事故を、独自の制御技術を備えた電動バイクで大幅に削減するという内容だ。

「ほとんどのオートバイはエンジンパワーを後輪だけに伝えるため、いったんタイヤがすべるとスリップ事故に発展してしまいます。事故を防止できるのは、ライダーの技量頼りです。ところが、四輪駆動車は4つのタイヤをリアルタイムに制御してスリップしたタイヤを補います。それを二輪車にも採用し、後輪がスリップしても前輪が駆動制御することで転倒を防ぐという仕組みです」と説明するとおり、二輪車は後輪駆動が当たり前という強い既成概念のなか、電動化によって前輪、後輪どちらも駆動する方法を見出した。

コンセプトモデルは電動の特性を活かしたスタイリッシュなデザインで、インホイールモーターを前後2輪に採用。通常の前後輪の駆動力の比率は50:50だが、すべりやすい路面では、駆動力が40:60~70:30と路面状況に合わせて最適にコントロールするため、スリップ転倒する事無く安全に走行できるという。

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「安全性が高い電動バイクが完成すれば、二輪車は危険な乗り物だと敬遠していた人や、山村や過疎地域の高齢者の交通手段にもなると考えています。また、悪路に強い高い機動性を活かして、災害時の救助活動や、南極等の極地探検に貢献することもできます」と、電動バイクによる社会課題の解決も提案する。

バッテリーは300km走行を目標とし、給電はカートリッジ式などさまざまな方法に対応。また、スクーターなら通常3時間かかる充電を3分で済ませる最新リチウム電池の採用を予定するなど、2023年のプロトタイプデビューに向けて着々と準備を進めている。

シリコンバレーやイタリア国際レースでの経験が自信につながった

「転ばない電動バイク EV/MOTO 開発PJ」について、濱田氏がはじめて提案したのは、OIHが実施した大阪市の「シリコンバレー派遣プログラム2014」である。

派遣メンバーに選ばれた濱田氏は、アメリカ・シリコンバレーに1週間滞在し、スタンフォード大学やVCを訪問し、プレゼンテーションする機会を得た。その間メンターや参加者からアドバイスをもらいながら、ビジネスプランのブラッシュアップを行った。最終日のプレゼンではサンブリッジというVCから社長賞を授与された。

「二輪車でテスラ社のような世界的モビリティメーカーになりたいというビジョンについて、可能性があると言ってもらえたことがとてもうれしかったですね」

2019年、イタリアの国際ツーリングレースにレーシングライダーとして参加するためにクラウドファンディングを行った。その際、電動バイクプロジェクトに関するヒアリングをしたところ、好感触を得ることができた。モータースポーツが文化として根付く地で評価されたことは、大きな自信につながった。

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同時に、「イタリアと日本のモータースポーツに対する価値観の違いも感じた」と言う濱田氏。

「イタリアでは、おじいちゃんおばあちゃんから孫やワンちゃん達まで、家族ぐるみでサーキットでモータースポーツを楽しんでいました。対して、日本のオートバイには危険なイメージがついてしまっていますよね。自動車メーカーやオートバイメーカーがひしめく国でありながら、それらを使いこなす教育が行われてこなかったことで、文化として根づくまでに至っていません。レースを楽しむ環境はよくなってきていますが、モータースポーツそのものがもっと浸透することを願っています」

レーシングライダーとプロダクトデザインの経験を活かして独立

濱田氏がオートバイにはまったのは大学生のとき。当時アクセスの悪い場所にあった大学へのオートバイ通学をきっかけにオートバイで走ることが好きになり、レーシングライダーとしてレースに参戦するまでになったという。

空気抵抗の少ないボディ設計や、軽量化に有利な素材選びなどにこだわってオートバイを改良していると、いつの間にかレース用品の開発に興味を持つようになった。

大学卒業後、しばらくはレース活動に専念していたが、日本初のカーデザインが学べる学校ができたことを知る。レーサーとしていつか自分が理想とするオートバイをつくりたいと考えていた濱田氏は、レーサーを続けながら学び直すことを決意した。卒業後は、プロダクトデザイナーとして医療機器メーカーで働いたあと、大手スポーツ用品メーカーに転職し、商品開発本部のデザイナーとしてスポーツ用品のデザイン全般に携わった。

「オリンピック選手やメジャーリーガーの使う道具やウェアをはじめ、あらゆるスポーツジャンルに携わりました。新しい素材や流体力学など、最新のテクノロジーを採用して進化させるスポーツ用品の開発手法は、モータースポーツと共通する部分も多いです」

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大手スポーツ用品メーカーで約20年間働いたあと、独立してRIDE DESIGNを設立。プロダクトデザイナー&アートディレクターとして、さまざまな分野における「機能美」と「楽しさ」の両立をめざす新しいデザインに挑戦することになった。

デザインとレーシングスピリットが映えるスポーツモデルから展開

二輪車の世界市場が5兆円以上といわれる現在、電動バイク市場は、CO₂排出量削減の影響もあり、2025年には8,500億円以上になると予想されているという。一方、二輪車の日本市場は2,000億円ほどで、世界市場同様、電動バイク市場の拡大が期待される。

「エコで安価な電動モビリティが数多く開発されているなかで、自分の強みであるレーシングスピリットに基づいたデザインにこだわりたい」と話す濱田氏。

現在のプロジェクトの主な応援メンバーは数名。ロボットや電動車いすなど電子機器のエンジニア兼プログラマー、ジェットコースターなど遊園地の乗り物を開発している製作会社社長、レース関係者などから協力を得ている。

まずは、レーシングスピリットに基づいたスポーツモデルを製作し、続いて一般モデル、デリバリーモデルへと展開。ターゲット層は、オートバイを数台所有し、オートバイレースを楽しむようなハイエンドユーザー。また、週末にサーキット走行を楽しむモータースポーツファンもターゲットに想定している。

高性能で高級なオートバイに興味を持つハイエンドユーザーは世界中におり、300万円以上する製品も発表と同時に完売状態になるという。

「私たちの電動バイクは1台約350万円の価格を想定しており、まずは1000台の生産を予定しています。電動化によって騒音や排気ガスがなくなれば、市街地でモータースポーツを楽しむことも可能です。ヨーロッパのように地域の活性化にもつながると考えています」

電動バイクのノウハウを活かして月面バイクの開発にも乗り出す

濱田氏は、資金調達やプロジェクトを支援してくれる仲間を集めるため、声をかけていただく学会や団体の会合にはできる限り参加してプロジェクト内容を発表し、起業家支援プログラムにも積極的に参加している。

「『スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKA(SIO)』には2年続けて採択されており、研究開発支援やアドバイスを受けています。つい最近も、JETRO主催のアクセラレーションプログラムに採択されてブラッシュアップを続けています」

「転ばない電動バイク/ EV MOTO 開発PJ」の事業化をめざして動くなかで、電動バイクの活躍の場も広がってきた。

NASAが2024年に人類を再び月に送りこむアルテミス計画を発表したり、世界の実業家が続々と宇宙旅行に向かうなど、宇宙への関心が一気に高まる今。濱田氏は空気のないところや砂漠、南極などの極地でも走行できる電動バイクのメリットを活かして、月面探索バイクを開発したいと考えている。

「JAXAが発表している月面探索車は、6tという重量で打ち上げコストもかかる。月面バイクなら重量を100kg程度に軽量化する事も可能で、コスト面、機動性、走破性が優れています。そして、車とバイクの良さを活かして、お互いを補完し合える事をめざしています。」

ここで強調したいのは、濱田氏が電動バイクを製作するうえで念頭に置いているのは、完全自動運転のバイクをつくりたいのではなく、操縦を楽しめるバイクをつくりたいということだ。

「たとえ完全自動運転の時代になっても、自分でオートバイを操縦する楽しみは追求したいですね。電動モビリティが社会的に認知されてきた今こそ、このプロジェクトを事業化して、電動バイクの安全性、機能美、楽しさを広く伝えていきたい」と話す。

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「まだ結果を出していない私が、起業を志す人にアドバイスなんてできない」と謙遜する濱田氏だが、自分の理想を掲げる電動バイク開発プロジェクトの実現に向けて走り続ける姿こそが、勇気を与えてくれる起業家スピリットそのものである。

取材日:2022年2月25日
(取材・文:花谷 知子)

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