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起業家ライブラリ

茅原 郷毅 氏

「潜在宅建士」によるギグエコノミーモデルで、不動産業界を革新する

茅原 郷毅 氏

起業予定(現所属:NTTメディアサプライ株式会社)
事業内容不動産取引の契約業務プラットフォーム

宅建士による「重要事項説明」にともなう壁を取り払う

土地や住宅の売買、あるいは賃貸にあたっては、売り手と買い手、貸し手と借り手、さらには仲介する事業者などとの間でさまざまな契約が交わされる。不動産契約では、宅地建物取引業法に基づき、対面での「重要事項説明」の他、重要事項説明書や契約書への記名・押印ができるのは宅地建物取引士(以下、宅建士)だけと定められている。

不動産取引会社では、従業員の5人に1人が宅建士であることが義務づけられている。しかし人材が採用しにくくなっているという社会情勢や、雇用にともなう固定費の増大という経営課題は、不動産取引会社のスケールアップにブレーキをかける要因になっている。一方で宅建士の有資格者は、約3割しか実際に不動産業界で勤務していないという現状がある。金融業界や建築業界など別業界で勤務していたり、子育てなど、フルタイムで対面勤務ができない状況であったりと理由はさまざまだ。潜在的な人材は豊富にいるのに、十分に活用できていないという課題があった。

NTTメディアサプライ株式会社

ここに着目したのが、NTTメディアサプライ株式会社(以下、NTTメディアサプライ)の茅原郷毅氏を中心としたチームだ。茅原氏は自身の自宅購入をきっかけに不動産業界に興味を持ち、不動産ITコンサルタントとして業界へ参画した。業界の一員として不動産取引会社の業務内容に携わるうちに課題を感じ、“このアナログな業界の不便さを、本業であるNTTで培ったデジタル技術のノウハウを活かして解決したい”と考えるようになった。

NTTメディアサプライ株式会社

「私たちが取り組む『Central Performer』事業は、不動産取引会社と潜在宅建士を結びつけるサービスです。ポイントは、『従来的な企業と有資格者の直接の雇用関係を橋渡しするのではなく、潜在宅建士がギグワーカーとなり、好きなときに、好きなだけ働けるようにすること』です。企業側にとっても、必要なときにだけ宅建士の力を借りることができます。宅建士を雇用することにともなう課題や、潜在宅建士にオンラインを活用した、距離や場所に依存しない、新しい働き方を提供することで、不動産業界で働く人材が少ないという課題を解決するサービスです」

茅原氏が数年前から温めていたこのアイデアを一気に加速させることになったのは、2022年に行われた法改正だ。ここでは、不動産契約に係る重要事項説明書・契約書への宅建士の押印廃止や電子契約が解禁された。これにより、宅建士はオンラインで全国の不動産契約の説明に携わることができるようになった。潜在宅建士の活用が期待できる法改正を受け、茅原氏は事業計画書の作成を進めた。

NTTメディアサプライ株式会社

大阪イノベーションハブ主催の「ミライノピッチ」にエントリーしたのは、“大阪での起業を考える中で、事業の周知を兼ねてチャレンジできる大阪で開催されるピッチイベントがないか”と探したことがきっかけだった。2022年12月に開催された「ミライノピッチ2022」では、一般の部で見事にOIH賞を受賞し、「事業への手応えを感じた」と茅原氏は言う。

会社に在籍しながら事業を立ち上げる

事業は、茅原氏を含めた4人のチームで推進している。最初に加わったのは、西日本電信電話株式会社(以下、NTT西日本)グループ内で新規事業開発や事業収支の分析などに携わっていた横田康平氏。2022年3月に横田氏が加わった後、同グループ内でプラットフォーム開発などに携わっていた秋田恭輔氏と公共団体向けの営業に携わる平本将也氏が加わり、同年10月に現在のチーム体制となった。

ユニークなのは、4人ともNTT西日本のグループ各社に籍を置いている会社員であることだ。この点について茅原氏は次のように語る。

「NTT西日本では、申請をすれば副業も認められる制度があり、その制度を利用して挑戦がしやすい環境が揃っています。ミライノピッチでの受賞を社長に報告したところ、これまで以上の応援をいただけることになりました。社長からは、“NTT西日本の新規事業として育ててくことも、独立して起業することも、どちらの道を進んでもいい”と言われています」

NTTメディアサプライ株式会社

チームは、週に1度全員が集まり、進捗状況の共有や課題についてのディスカッションを行っている。この他に、メンバー間で随時やり取りを交わし、それぞれが受け持つ業務を進めている。

メンバーそれぞれが、社長をはじめとして、家族や親しい友人から応援を受け、安心して事業を進めることができる。それが追い風となって、これまでの業務を超えて視野が広がり、この経験がまた本業にも活きていると語る。

大阪発のユニコーン企業への成長をめざす

事業は、不動産取引会社との連携による実証実験のフェーズにある。サービス自体をブラッシュアップしていくことはもちろんだが、「売上げやコスト削減などにどれぐらい効果があるか、定量的に測定できる方法の確立も重要な課題」と茅原氏は言う。

不動産取引会社と言っても、戸建て住宅を中心に扱う会社や賃貸住宅を中心に扱う会社など、事業の特性は会社ごとに異なる。それらの中でどういった会社がサービスとの親和性が高いかというターゲットの絞り込みも、これから先の重要テーマの1つになっている。

ベンチャーキャピタルなどに指摘された課題を1つクリアすると、また新しい課題が生まれるという毎日を過ごしているチームメンバー。直近で描いている道筋は、2023年4月のローンチ、そして同年7月の会社設立だ。その先には、

「大阪発のスタートアップとして、ユニコーン企業に成長することが大きな目標です。」

チーム力を高め、働き方・生き方のロールモデルになりたい

チームを構成する4人は現在、茅原氏をリーダーに、横田氏が事業構想の具現化に向けたチームビルディングを、秋田氏が技術面を担当しサービスを形にして、市場や競合などのマーケティングリサーチを平本氏が担当するという役割分担を行っている。

NTTメディアサプライ株式会社

横田氏は、「森の木を切り倒してぐいぐい前に進むのが茅原。切り倒した木を片付けてみんなが通れる道として整えるのが私。違う道を提案してくれるのが秋田。違う通り方を提案してくれるのが平本。そういう関係性です」と説明する。

茅原氏も「異なる得意を持ち寄った、非常にバランスのいいチームと自負しています。それだけに、ベンチャーキャピタルなどからチーム力について懐疑的な発言があると、“さらにチームとして成長していきたい”と感じますね」と言う。

「実は私たちはそれぞれに、社会人としての先行きに不安を感じ、マンネリ感に苛まれた経験を持っています。ところが現在の事業に取り組むようになってから、ワクワク感に満ちた毎日を過ごせるようになりました。世の中には、かつての私たちと同じように『もがいている人』がたくさんいると思います。私たちが事業を成功させることで、そういった人たちに希望や目標、新しい選択肢を提示することができるはずです。だからこそ、この4人で事業を成功させたい。“こんな働き方、こんな生き方があるんだぞ”と示す、ロールモデルになりたいですね」

茅原氏自身が感じた不便さから始まった事業。それはいま、満たされない思いを抱える多くの会社員に希望の道を示す、大きな挑戦として一歩一歩前へ進んでいる。

取材日:2023年1月28日
(取材・文:松本 守永)

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