波の揺らぎの力でモーターを回して電気を生み出す波力発電技術を開発するYellow Duck株式会社(以下、Yellow Duck)。発電装置は海に浮かべるため、大がかりな初期工事は不要。シンプルで環境負荷の少ない仕組みだ。社名の由来は、シンボルとなっている愛らしい黄色いアヒル型の装置。現在、本格的なインフラとしての利用をめざして実証実験中だと語る代表の中山繁生氏が、これまでの歩みと未来への展望を語る。
海上のウキとオモリの自然な動きからエネルギーを
私たちの開発する技術は、ウキとオモリの入った船のような形の浮体物を海に浮かべ、波からエネルギーを取り出す波力発電の一種です。浮体物が海の上でバランスを取ろうとする、自然な動きをエネルギーに変えています。
海からエネルギーを取り出す技術には、風を使う「洋上風力発電」、海水の温度差を使う「海洋温度差発電」、潮の流れを使う「海流発電」などがあります。しかし、いずれの方法もメリット・デメリットがあり、まだ決定打はありません。
初期モデルによる検証の様子
私たちの装置のメリットは、“大規模な海底土木工事が不要である”こと。装置は全て海上にあるので、メンテナンスも容易で、自然環境や海の生き物への負担を軽減します。CO2も排出することなく、地球表面の7割を占める海全域が発電所となりうるのです。
開発を始めてからこれまで、紆余曲折の歩みでした。現在の技術に行き着くまで、あれこれ難しく考えて装置が複雑になり過ぎ、壊れやすくエネルギー効率が落ちてしまうという悪循環に陥ったこともありました。そのような経験を経て、私たちは今、“シンプルなアイデアで、世界をやさしく”という考え方をベースに、より自然に寄り添ったかたちでの再生可能エネルギーを追究しています。
東日本大震災をきっかけに手作りで実験を開始
私がエネルギー問題に興味を持ち始めたきっかけは、2011年の東日本大震災でした。震災後、国や自治体によって再生可能エネルギーの開発が大きく進められ始めた頃です。
私の住んでいた地域にも、あちこちに太陽光パネルが並び始め、子どもの頃によく遊んだ山の木々が切り倒されて、パネルがいくつも設置される光景に違和感を感じたこともありました。ある地域では、パネル設置のために山の斜面が削られ、雨が降るたびに土砂が河川に流れ込んで、土砂混じりの水が道路に溢れ、地域住民の間で問題になっていました。
当時、私は行政書士として仕事をしていたのですが、このような問題を見聞きするうちに、「もっと自然にやさしい方法でエネルギーを生み出せないか」と考えるようになりました。そこで論文を読んだり、動画を見たりしながら、自宅で小さな実験を始めたのが、2014年頃のことです。
最初に作ったのは『ソーラーチムニー』という発電装置。黒いビニール袋の中の空気を温め、その空気がプラスチック管で作った煙突から抜けていく力を利用してタービンを回す仕組みでした。この装置で発電はできたのですが、実際に利用できるほどの電力を生み出すとなると、太陽光パネルと同じくらい、またはそれ以上の場所が必要になりました。
次は風に注目しました。風力発電というと、一般的には背の高い支柱で支えられた大きな風車が利用されるのですが、私は支柱ではなくロープで支えるカイト(凧)に風車を取り付け、上空の風を受けてタービンを回す『カイト風力発電』と呼ばれる装置を作りました。この装置の大きな問題点は、上空の可動域がとても広いことでした。ロープを300m伸ばしたら、半径300mの半球上の可動域が必要となり、上空のものに引っかかる可能性があることが分かったのです。
そうして開発に行き詰まっていたある日、海岸を散歩していた時のことです。ゴミが波に繰り返し揺られているのを見て、「波の力でエネルギーを生み出せるかもしれない」とひらめきました。そこで、浮き輪に振り子を取り付け、その動きを電力に変える波力発電装置の開発を始めました。それが今の技術につながる初めの一歩、2018年頃のことです。
この仕組みも最初からうまくいったわけではなく、タイミングによって、波が振り子の動きを打ち消してしまい、電気ができたり、できなかったりという不安定な要素を持っていました。開発を始めてから約3年、試行錯誤が続きました。
自治体の協力で実証実験を開始
転機が訪れたのは2022年。エンジニアとの出会いをきっかけに、技術が一気に進みました。振り子を動かすのではなく、ウキが海面に上がる力で直接モーターを回すという、よりシンプルな技術に切り替えたのです。同年、ピッチイベントで「NEDO賞」を受賞。この受賞を機に、さまざまな業界の方から声をかけていただくことが増えました。そんな矢先に、現在メンバーの一員である山岡と出会い、2023年8月にYellow Duckを設立しました。
2024年、いよいよ実証実験を開始。2024年から2025年にかけて富山、大阪、福岡において、護岸に固定した発電装置を使って行った実験は、暴風警報が発令される中でも、想定以上の性能が確認されました。今後も、この装置を沖合に浮かべて行う実証実験を、全国5カ所で計画しています。
全く分野の異なる仕事をしていた私が、震災により覚えた疑問と違和感。そこから小さな実験を重ね、会社を立ち上げることができたのは、周囲の人たちとの出会い、そして家族の支えがあったからだと感じています。だからこそ、より多くの人たちに私たちの技術を知っていただき、社会に役立てたい。そんな想いで、大阪・関西万博では、シンボルである黄色いアヒル型の装置を使って、子どもたちに海洋発電の可能性を伝えました。
2025年開催、大阪・関西万博 大阪ヘルスケアパビリオン内での出展時の様子
私たちの技術は、海上にあることによってリソースが分散されるため、災害時の非常用電源としても有効だと考えています。これまで支えてくださった人たちへの感謝の気持ちを忘れることなく、今後も、本格的な実用化をめざして、さらなる開発を進めていきます。
OIHをこんなふうに活用しました!
2022年頃からOIHとつながりを持ち、2023年には、HeCNOS AWARDを受賞。そのことでOIHから紹介いただき、大阪産業局のラジオトーク番組「Zaiラジ!ビジネスの舞台裏」に出演。その後、大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンへの出展が決まりました。またOIHからの推薦で、YouTube番組「NewsPicks」内の堀江貴文さんの番組「HORIE ONE」で行われた「出張メイクマネーサバイブ in 大阪」にも出演しました。さらに2025年、念願の「起動」プログラムにも採択されました。「起動」プログラムは、スタートアップのニーズに寄り添ってくれる素晴らしいプログラムだと感じています。
2024年1月に放送されたラジオ番組「Zaiラジ!ビジネスの舞台裏」では、開発時の苦労話について語った(2023年12月撮影)
取材日:2025年6月18日
(取材・文 岩村 彩)






