リハビリや療育、教育現場で使えるデジタルツールを開発・提供している株式会社デジリハ(以下、デジリハ)。これまでに開発したアプリは、約35種類。病院などの医療機関や特別支援学校、障がい児通所支援施設など、施設種別を超えて導入できる汎用性が強みだと語る代表の岡勇樹氏に、現在の活動と今後の展望をお聞きした。
1人ひとりの特性に合わせて自由な発想で使える
『デジリハ』は、デジタルアートとセンサーを活用したリハビリテーションツールです。それぞれのアプリに、親しみやすいアート性と心地よいインタラクションがあり、ユーザーの「やってみたい」という意欲を自然に引き出せるように設計されています。
開発のコンセプトは、『目の前のたった一人を見つめ、世界24億人を見据える※1』。多くのアプリが学校用、病院用などと対象施設が分けられていたり、障がいや疾患別に対象者が分けられていたりする中で、私たちの開発するツールは、ユーザーや施設種別を限定しないことに強みがあります。
※1参考:WHO(世界保健機関)Rehabilitation (Fact sheets) “Globally, an estimated 2.4 billion people are currently living with a health condition that may benefit from rehabilitation.”(世界全体で、推定24億人がリハビリテーションによって恩恵を受ける可能性のある健康状態で生活している)より

身体の動きは、WEBカメラ、視線入力センサー、マイク、ウェアラブルセンサー、LiDARセンサー(赤外線の反射で距離を捉える)の5種類のセンサーが対応。重度の障がいのある方から、活動量の多い発達障がいのある子ども、車椅子を利用する高齢者まで、障がいの程度にかかわらず幅広く対応できます。
アプリ側には、誰でも簡単に設定できるカスタマイズ機能があります。例えば、オブジェクトを触って動かすことを楽しむアプリでは、障がいの程度や内容などに合わせて、動くタイミングを秒単位で設定可能。その人にちょうどいいタイミングで動かすことによって「自分が動かした」という手応えを、より強く感じることができます。私たちは、このような些細なところにこそ真価が宿ると考え、ユーザーのモチベーションをいかに上げるかを日々研究しています。
多様なセンサーとアプリのカスタマイズ機能のかけ合わせによって、個々のニーズに合わせた自由な使い方ができることが、デジリハのツールの大きな強みです。アプリは現在35種類あり、全国約270か所の施設・学校・医療機関で導入いただいています。
「やってみたい」という主体的な意欲が変化を起こす
私は20代の頃に、家族の病気などをきっかけに福祉に興味を持ち始め、2008年に「エンタテインメント×医療福祉」をテーマにしたNPO法人を立ち上げました。堅いイメージのある医療・福祉という分野に、音楽やアート、ゲームなどを採り入れ、障がいや病気の有無にかかわらず、誰もが楽しみながら社会に参画できることをめざしました。幼少期から児童期をアメリカで過ごし、多様なエンタテインメントが身近にあったことも影響したのかもしれません。
そんなある日、障がいのある友人の子どもが、泣きながらリハビリを受ける姿を目のあたりにしました。「この子が楽しみながらリハビリに取り組めるアプリができないだろうか」。その時に感じた強い想いが、デジリハの事業を立ち上げるきっかけとなりました。
2018年、アプリが完成したことを機に事業を本格化。その後、製品の数を増やしながらプラットフォームを整え、2021年に株式会社として新たなスタートを切りました。
人は、いくら自分のためになることであっても、つまらないこと、つらいことを進んでやろうとは思えません。それは子どもだけでなく、大人も、高齢者も同じです。そんな状態でリハビリを受けても成果は上がりにくいのです。
「楽しい」「やってみたい」という主体的な意欲こそが、その人の持っている本当のポテンシャルを引き出す。デジタルアートにはその力がある。
その確信の下、できるだけ現場に出掛け、ユーザーの姿を目で確かめ、現場の人からの「こんなアプリが欲しい」「このようにカスタマイズできれば」という声を聞き、理学療法士、作業療法士を含む仲間たちと共に、開発に活かしてきました。私たちの歩みは、そんなユーザーの姿や現場の声に1つずつ応えてきた積み重ねなのです。
本当の意味での「全人的復権」に向けて
現在はアプリの開発のみならず、ツールの効果的な使い方を伝えるフォローアップ講座の開催、アプリを使いこなせる療法士を現場に紹介する事業なども行っています。
今後は、介護業界への本格的な参入に向けて力を入れていきたいと考えています。さらには、海外進出の拠点として立ち上げたアメリカ・シリコンバレーの子会社でも、現地の施設や医療機関に向けて、本格的な営業活動を行っていく予定です。
リハビリテーションの語源は、「再びふさわしい状態に戻る」ということ。日本語では「全人的復権」と表現します。つまり、人間らしく生きる権利を取り戻すことです。
現在デジリハを利用いただいている施設・学校・医療機関が、今後さらに増え、1千倍、1万倍の規模になったとき、実現できることはさらに広がるでしょう。制度やコミュニティのあり方、障がいのある人の就労や働き方など、仕組みそのものを変えていけるような働きかけができるかもしれません。それが私たちのめざす本当の意味での「全人的復権」です。その実現をめざして、これからも現場の声に丁寧に応えながら、事業を広げていきたいと考えています。
OIHをこんなふうに活用しました!
「Tech Osaka Summit 2025」の英語ピッチコンテスト、「Tech Osaka Award 2025」でグランプリに選んでいただきました。日本には、ピッチから質疑応答まで、すべて英語でできるコンテストが多くなく、その中で「Tech Osaka Award」は、本気で海外進出に挑戦したい人たちの登竜門となっていくような印象を受けました。いただいた賞金の一部は、大阪府への還元として、府内の児童発達支援事業所など3つの施設に、デジリハ機材を無償提供するために活用させていただきました。


「Tech Osaka Award 2025」では、グランプリを受賞。
賞金を獲得した。
取材日:2026年2月4日
(取材・文 岩村 彩)

