カメラ映像によってロボットが周囲を判断・適応し、自己学習する独自のナビゲーションモデルKRM(Kanaria Robotic Model)を開発するKanaria Tech(カナリアテック)株式会社(以下、Kanaria Tech)。立命館大学の現役学生が率いる3人のメンバーで創業した、大学発のAIスタートアップだ。現在、国内大手のロボティクス企業とパートナーシップを締結し、同大学のキャンパス内のみならず、さまざまな環境下で実証実験中だと語るCOOの瀧下奎斗氏が、これまでの歩みと未来への展望を語る。
ロボットの<目>と<脳>の役割を持つAIプラットフォーム
私たちの開発する『KRM』は、人の<目>の役割をするカメラと、その映像データによって学習する<脳>を持ち、人間のように周囲を理解しながら自然に動くロボットを実現するAIプラットフォームです。システムには高い汎用性があり、メーカーを問わず、さまざまなロボットに後付けすることができます。
これまでのロボット走行技術には、エリアのマップを生成し、搭載した複数のセンサーによって自分の位置や障害物を認識させるという手法が使われてきました。しかしこの手法では、広範囲になるとマッピング作業に手間がかかり、またエリア内のレイアウトが変わるたびにマップのつくり直しもする必要がありました。さらに、複数のセンサーを同時に使用していることでデータのズレがどうしても生じてしまい、そのズレがロボットに自己学習させるうえでの大きな妨げとなってきました。これらの理由から、広いエリアや環境が変わりやすい場所、人の往来の激しい場所でのロボットの走行には、多くの困難があったのです。
私たちの開発する『KRM』を搭載したロボットは、障害物や人の動き、速さ、大きさ、形などを、<目>で見てリアルタイムで認識します。さらに次の動きを予測し、適切な行動につなげます。これにより、これまで導入が難しいとされてきた広く複雑なエリアや人混みの中でも、スムーズに走行できるようになります。
現在、この技術は特許出願中。学校法人立命館によるスタートアップ支援ファンド(RSIF)からの出資をはじめ、NVIDIA InceptionプログラムやGoogle for Startups クラウド プログラムなど、複数の支援を受けながら、社会実装に向けて着実に前進しています。
同じ志を持つ留学生の研究仲間と共に起業
私は映画の影響でロボットに興味を持つようになり、小学生の頃からロボットの大会などに出場していました。海外の大学に進学し、英語を学びながらロボットやAIについて学びたいと考えていましたが、コロナ禍でやむなく海外大学の受験を断念。立命館大学情報理工学部のISSE(Information Systems Science and Engineering Course)に進学しました。
学生のほとんどが留学生という環境で学びながら英語を習得し、大学2年生の時には、NASA(アメリカ航空宇宙局)のプログラムに参加。現地の火星探査ロボットの開発コンテストなどで入賞を果たしました。
そんな経験から、AIとロボットの分野での起業を考えるようになった頃、同じ研究室で学んでいたトルコ出身のイブラヒム(現・CEO)と、その友人でキリギス出身のアリシェル(現・CTO)と意気投合。“人が行き交う場所でも人のように動けるロボットをつくりたい”というビジョンと共に、彼らと2022年にKanaria Techを創業しました。名前の由来は、3人の母国語でも鳥の「カナリア」は共通して「Ka-na-ri-a」と発音すること、誰も足を踏み入れたことのない洞窟の中を飛ぶように、未知の領域を切り拓く企業であることを願い名付けました。
人のように動けるロボットを実現させるには、まず従来のナビゲーション手法を変える必要があると、私たちは考えました。それまでのロボットのナビゲーションに採られていた手法は、例えば[青信号では進め][前に人がいれば停止]などの細かなルールを、1つひとつロボットに与えていくというものでした。しかし実際の街中では、[信号は青でも前に人がいる]というような矛盾する状況が多く発生し、その度にロボットは判断ができずに動きが不安定になっていました。
そこで私たちは、ロボットにルールを一切与えず、代わりにカメラを搭載して手動で走行させ、その映像を正しいナビゲーションとして教えるという手法を採りました。さまざまな映像データをひたすら学習させることで、例えば青信号でも前に人がいるというような場合にも、きちんと状況を踏まえた判断ができるようになったのです。
これは、私たち人間が自然と行っている認知行動プロセス(目で見て、脳で判断し、行動に移す)と同じ。これをロボットに適用したのは、世界でも私たちが初めてです。ロボットが人間に近づいた、大きな一歩だと確信しています。
最優先するのは「人の尊厳」であることを軸に技術開発
私たちがめざすのは、『ロボットが日常空間に自然に溶け込んで働く社会の実現』。KRM をあらゆるロボットに搭載できる基盤技術にすることで、普及コストを下げ、誰もがロボットの恩恵を受けられる社会が実現することです。それは例えば、高齢化によって維持が困難になりつつある社会インフラの現場での労働力不足改善、また、商業施設や観光地といった人が集まる場所でのサービスの品質向上、業務効率化などが挙げられます。
現在の社員数は15名。私以外はみんな外国籍という国際色を強みに、アジア・欧州・北米などグローバル市場に進出し、KRM を世界標準のナビゲーション基盤へと成長させることをめざしています。
2025年9月には、「KIDOU Global Conference」のピッチコンテストで最優秀賞を獲得した
ただ、私たちはロボットやAIが、完全な人の代わりになるとは考えていません。今後どんなに技術が向上しても、ロボットとは、あくまでも人の生活を支え、サポートする存在。「人の尊厳を最優先する」という考え方は、開発において絶対に譲れない軸として常に私たちの念頭にあります。
現在、実運用に向けてパートナー企業との概念実証を進行中です。一例を挙げると、日本精工株式会社、立命館大学大阪のいばらきキャンパスにおいて、同社の自律移動ロボットに KRM を搭載した実証実験を行っています。
今後さらに多くのパートナー企業とつながり、多様な環境でのテストを重ねながら、より適応力を高めていきたい。日本国内のみならず、世界のロボット企業と連携し、ロボティクス産業の発展と新しい価値の創出に貢献していきたいと考えています。
OIHをこんなふうに活用しました!
2025年9月に開催された「KIDOU Global Conference」において、KIDOU Pitch部門の最優秀賞をいただきました。さらに同年11月には、海外ワークショップ「グローバルアントレプレナープログラム」に参加しアメリカ・ボストンを訪れ、たくさんの刺激を受けました。OIHのプログラムを通して、関西のみならず、日本全国、そして世界の、同じ志を持つ仲間と出会うことができています。
2025年11月にOIHが主催する海外ワークショップ「グローバルアントレプレナープログラム」に参加し、バブソン大学で英語ピッチを披露、現地の学生や教員、支援機関などと交流を深めた
取材日:2025年12月12日
(取材・文 岩村 彩)

