新たな技術やサービスを生み出し、社会に変革をもたらす起業家の育成が国を挙げた重要な課題になっている。起業に向けた支援や教育の裾野も広がりつつあり、中学生や小学生も対象になってきた。「ミライノピッチ2025」において独自の起業教育プログラムを発表し、OIH賞(学生の部)を受賞した神戸大学起業部Standyの大西拓斗氏に話を聞いた。
多様なメンバーと共に、子どもたちの起業家マインドセットに取り組む
私たち神戸大学起業部Standyが取り組むのは、高校生以下の世代を対象にした起業教育です。事業プラン全体としての特徴は、小学生から高校生まで一貫型のプログラムを提供する点。子どもたちの発達や知識・スキルの習得状況に応じたプログラムを提供できることや、一貫教育ならではの統一性のある指導を行えることから、私たちはこのプログラムを『起業教育のJリーグモデル』と呼んでいます。
小中高という3つのフェーズで行われる教育のうち、先行して既に取り組んでいるのが小学生向けの教育です。ここでは、楽しみながら起業について学ぶことを目的としたボードゲームを開発しました。すごろく形式のこのゲームは、学校が舞台。小学生の日常に起こりそうなさまざまな課題(クエスト)を、知恵とアイデアで克服しながらゴールをめざします。
クエストの一例として、家庭科室で「油をこぼしてしまった」「コンロの火がつかない」などがあります。これらのクエストに対して、<モノ><能力>といった手持ちのカードを組み合わせ、解決を図るのです。解決できれば報酬としてお金を得ることができ、そのお金は人を雇ったり、設備に投資したり、といった会社の成長のために使えます。
カードを組み合わせて課題を解決するというのは、イノベーションに相当します。得たお金を使って人を雇用し、設備に投資しながらゴールに向かって進んでいくというのは、資金を有効に投資することで会社を成長させるという意味。ゲームを楽しみながら起業を疑似体験し、起業家が持つマインドやスキルを養おうというのが、このゲームの狙いです。
ゲームは実際の小学校の授業の中で体験してもらいました。児童からは「楽しかった、家でもやりたい」という声が上がっています。先生方からも好評で、今後の授業でも取り入れていきたいという評価をいただきました。イベントを開催して一般の参加者を募った際も、「早く販売してほしい」といった声が寄せられました。
ワクワクしながら学べる機会を提供したい
私たちのビジネスプランの原点にあるのは、現在の教育への課題感です。子どもたちの多くは、進学のために何となく勉強しています。勉強の大半は知識を詰め込むもので、そこにワクワクはありません。将来の夢や目標に向かってワクワクした気持ちで勉強でき、机に座って先生の話を聞くだけでなく、体験を通して学ぶ機会がもっとあればいいのにと思っていました。
起業という行為に対する社会の風潮にも課題を感じていました。多くの人は、起業はリスクが大きい行為だと考えています。失敗すると二度と立ち直れないと考える人も少なくありません。また、一部の意識の高い人だけが取り組んでいるものというイメージもあります。これらの概念を変えていきたいのです。
私たちの教育プログラムがめざしているのは、必ずしも起業する人を増やすことだけではありません。プログラムを通して起業する人が増えることはものすごく嬉しいことですが、起業しないにしても、起業家が備えているマインドセットやスキルを多くの人に身に付けてもらうことこそ、私たちのめざすものです。
目標を掲げてチャレンジする心や、アイデアや技術を組み合わせて課題を解決しようという考え方、チームで取り組む力というのは、起業家だけでなく現代の社会において多くの場面で求められるものです。それらを養うのに、起業教育はぴったりなのです。小学生の段階から起業教育に取り組んでもらうのも、ここに狙いがあります。
起業教育を日本のスタンダードに
今後は、ボードゲームとそこに付随するアプリやクラウドサービスなどを核にしながら、個人を対象とする「toC」、塾や学童、企業などを対象とする「toB」、そして自治体や学校を対象とする「toG」という3つの主要な事業領域を想定しています。
開発したボードゲームは、起業家のマインドセットを学ぶことができるという特色があり、チーム対抗でプレイすることもできます。このことから、企業内で行う社員研修の題材としての活用を期待する声をいただいています。
ボードゲームを用いた学びのイベントを充実させることも今後の目標です。従来は1回あたり数時間程度のものにとどまっていましたが、さらにプログラムを充実させ、宿泊を伴う長期型のものを開発します。そこで得た実績をもとに、toCやtoGへの提案を深めていきたいと考えています。
これらのことを行うには、資金が欠かせません。そこで、2026年2月からはクラウドファンディングを開始します。調達した資金を活かし、スピード感をもってサービスのブラッシュアップや営業活動を行っていきたいです。
神戸大学起業部に在籍する私たちStandyは、私を含め4名のメンバーで活動しています。私は主に企画・経営戦略を担当し、経営学部2年の石川咲良さんは広報・マーケティング担当として「いろいろ実践したい!」と積極的に活動を支え、国際人間科学部1年の伊藤龍成さんは起業経験を積むためAI・プロダクトを担当。文学部1年の日野口菜央さんは「厳しいと言われる起業部の環境にあえて自分を置きたい」と情熱をもってイベント設計・販売営業に挑んでいます。
左から、文学部1年の日野口さん、法学部3年の大西さん、経営学部2年の石川さん、国際人間科学部1年の伊藤さん。多彩なメンバーでクラウドファンディングに挑戦する
起業教育は、まだまだ日本ではなじみの薄いものです。それを変えていき、誰もが当たり前のように学校で学ぶ「日本のスタンダード」にすることが私たちの目標です。そうなればきっと、子どもたちはキラキラとした目をしながら将来の夢を語り、その実現に向かって歩き始めてくれるはずです。そんな社会を、私たちは創り出したいと強く願っています。
OIHをこんなふうに活用しました!
所属する神戸大学起業部の方針もあって、各地で行われるピッチやビジネスプランコンテストに積極的に参加しています。その中でOIH主催の「ミライノピッチ」がありがたかったのは、二次審査を通過した時点でメンタリングを受けられること。おかげでプレゼンのブラッシュアップができました。ビジネスプランに対するフィードバックを、ベンチャーキャピタリストと起業家の両方からもらえることも「ミライノピッチ」の醍醐味だと思います。
このほかにも「KSAC アントレプレナーズ Fes 2025」など、起業に関するイベントにもよく参加しました。著名な方々の講演などを聴くことで、自分のキャリアの方向性を考えたり視野を広げたりすることができました。
取材日:2026年1月27日
(取材・文 松本 守永)
