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起業家ライブラリ

タオ・シン(田尾 信)氏

設計データと現場とをARで連携。建設業界のDXを推し進める

建設業界向け現場情報一括管理ソフトウェア『Miraa AI』

タオ・シン(田尾 信)氏

株式会社ワンサイトテクノロジー
代表取締役
ウェブサイトhttps://www.miraa-ai.com/
事業内容現場情報一括管理ソフトウェア『Miraa AI』による建設業の支援

業務の効率化や新たな価値の創造に向けて、多くの業種でDXが推進されている。労働人口の減少や資材価格の高騰といった課題に直面している建設業界も例外ではない。しかし一朝一夕に成果が現れるわけではなく、試行錯誤が積み重ねられているのが現状だ。そこに風穴を開けるサービスとして期待されるのが、「ミライノピッチ2025」において一般の部でOIH賞を受賞した株式会社ワンサイトテクノロジー(以下、ワンサイトテクノロジー)の現場情報一括管理ソフトウェア『Miraa AI』だ。同社の代表取締役・田尾信氏に話を聞いた。

BIMとARを融合させ、設計から維持管理まで建設の全フェーズを支援

当社が開発・販売するソフトウェア『Miraa AI』は、建築や土木など建設業界の業務を効率化するためのものです。建設業界では、設計図や工程管理表など、膨大な量の紙の資料が用いられています。それらを管理したり、関係者で共有したりするには大きな手間がかかります。工事が進む過程で設計に変更や調整が加わることも珍しくありません。

それに伴って新たな図面が作られ、共有が図られます。これと同じようなことが、設計から施工、竣工後の維持管理までずっと続けられるのです。資料の多さ、それらを管理する大変さ、資料が多いがゆえに発生する意思疎通のずれなど、建設業界では多くの課題が生まれていました。

この課題を解決する方法の1つとして、BIM(Building Information Modeling)があります。BIMでは、設計時に3Dの建築モデルを作成し、そこに寸法や材料、仕様など、建設に必要なあらゆる情報を紐付かせておきます。例えばどこか1か所に設計変更があった場合、それに伴って調整が発生する箇所のデータは自動的に変更されます。つまり、「あの図面が変わったから、この図面も変更して、ということはこっちの図面も描き直し」といった作業が不要になるのです。

また、設計から維持管理まで情報が一元化されていることもBIMの利点です。デジタルの情報ですので、タブレット端末などで手軽に持ち歩くこともできます。 国直轄の事業で利用を義務付けるなど、BIMの活用を進めていますが、さまざまな要因で導入が進んでいないというのが現状です。

株式会社ワンサイトテクノロジー

『Miraa AI』の最大の特長は、このBIMとARを連携させている点です。例えば、BIMに基づいて設計情報を3Dの完成予想図として作成し、AR技術により現場に実際に映し出すことができます。これにより、設計意図を迅速・確実に関係者間で共有することができるのです。

株式会社ワンサイトテクノロジー

また施工段階では、現場に完成予定の3D画像を重ね合わせて見比べることで、施工ミスを防ぎ、検査の効率を高めます。BIMモデルはデータ容量が大きいのですが、私達は独自技術で建築情報の欠落がない状態での軽量化を実現。スマートフォンやタブレット、VRゴーグルなど、さまざまなデバイスでARによる組み合わせを可能にしました。

デジタルの遅れと高度な建設ノウハウ。そこにチャンスがある

BIMの分野において世界をリードしているのは、アメリカと中国です。アメリカでは、ニューヨークの駅周辺再開発事業にBIMとAR・MRを融合させた技術を用いたという事例もあります。それぐらい大規模な建設プロジェクトに利用できる技術なのです。

一方で日本に注目すると、国の方針として活用が推進されてはいるものの、「BIMで設計したけれど、それ以降の工程では利用できていない」というケースはまだまだ少なくありません。私は、日本と海外との間にあるこのギャップこそ、ビジネスチャンスだと考えています。

日本の建設業界は、世界にも類を見ないほど緻密な仕事をします。しかし、そこには膨大なデータが潜んでいます。AIに学習させることができたら、業務の効率や仕事の質を飛躍的に高めてくれるでしょう。このこともまた、BIMとAR・MRを融合させた技術に可能性を感じた理由です。

私は中国出身で、オーストラリアに留学した経験があります。留学費用を稼ぐために、建設現場でアルバイトをしました。重い建築資材をひたすら運ぶ仕事は、本当に大変でした。「もっと効率的にならないのだろうか」と思ったことが、現在のビジネスの原点にあります。

来日して神戸大学で経営を学ぶようになってからは、“理論を学ぶだけでなく、経営を実体験したい”と考え、起業部に入部。チームメンバーと共にビジネスプランを構築しました。このとき取り組んだ外国人留学生向けのシェアハウス事業は、空き家対策、留学生の住居確保、日本人学生との交流による相互理解促進という特色を評価いただき、「ミラノピッチ2022」にて学生の部でOIH賞を受賞しました。

実際に事業化を進めるなかでリフォームの現場を目の当たりにし、現場で紙の図面を広げ、設計担当者や施工会社の方がやり取りしている様子を見て、“設計情報などを3D化できたら便利だろうな。需要があるのでは?”と感じていました。

残念ながらシェアハウス事業は資金調達に苦戦したことなどもあり、思うような成果を上げられませんでしたが“ならば少ない資金で始められる事業を”と考え、IT分野に軸足を移すことに。そして辿り着いたのが、『Miraa AI』です。

経営の研究と実践を同時進行。まずは上場をめざす

『Miraa AI』は現在、企業で試験的に利用いただいてフィードバックをもらい、改良とPRを行っているところです。建設業とひと口に言っても、建築や土木という大きな違いもあれば、扱う建物や構造物の種類や規模の違い、さらに工程の一部分を専門に受け持つ企業など多種多様。それぞれに異なるニーズがあり、そこへの対応が私達の重要なテーマになっています。

さらに、人手不足は大企業よりも地方の中小企業にとって、より深刻な課題になっています。中小企業こそDXに積極的に取り組むべきなのですが、そこにはコストの壁が立ちはだかります。国や地方自治体もその状況を理解しており、地域の中小企業がDXに取り組む際に補助を行う制度などを設けています。私達も自治体と連携し、地域の建設事業者のDX推進をお手伝いしていきたいと考えています。 AR活用についてご興味を持つ方は、ぜひ一度ご相談ください。まずはどんなことができるのか一緒に考えていきたいと思います。

私自身は現在、神戸大学大学院 経営学研究科に所属する研究員でもあります。SDGsやパーパス経営、人への投資という観点から経営を研究しています。理論からアプローチするだけでなく、実践を通して経営を理解したいと思ったことが、起業したきっかけでもあります。目標は、上場をめざします。

私は、今の日本社会は起業にぴったりな環境だと感じています。先端技術にアプローチしやすいですし、ベンチャーキャピタルなどからの資金支援も得やすくなりました。そして、誰もが起業にチャレンジできるという、チャンスも豊富にあります。ただ、この状況がいつまで続くかは分かりません。数年で終わってしまうかもしれません。ですから起業に興味がある人には、ぜひこの機会を逃さずに行動してもらいたいです。

OIHをこんなふうに活用しました!

ワンサイトテクノロジーとしては「OSAP(OIH スタートアップアクセラレーションプログラム)」の19期に採択され、さまざまな支援を受けました。投資業界の方がメンターとして指導してくれ、投資家達が期待するスタートアップの姿について理解を深めることができました。同時に、自分自身が望む企業像や事業像についても深く考えることができ、両者のバランスの取り方を学ぶことができました。

その他のプラグラムも含めてOIHからは、連携先や資金調達先の紹介、PRする場の提供といった支援を受けました。スタートアップが成長するための、さまざまな近道が用意された場所がOIHだと感じています。

株式会社ワンサイトテクノロジー

取材日:2026年1月7日
(取材・文 松本 守永)

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