起業家ライブラリ

久保 直嗣 氏

世界初となる独立型交流電池の開発で地球環境の課題解決に貢献

久保 直嗣 氏

代表取締役社長
会社名AC Biode株式会社
ウェブサイトhttps://www.acbiode.com/home
事業内容世界初独立型交流電池の開発、有機ごみとプラスチックごみのリサイクル技術開発など

従来の直流電池の問題を解決する、両性電極「Biode(バイオード)」の誕生

環境汚染や気候変動、エネルギー資源の枯渇、地球温暖化など、現代社会は地球規模で取り組まなければならない、数々の深刻な課題を抱えている。

日本では1990年代より、こうした課題解決に取り組む「環境ビジネス市場」が急速に拡大。 なかでも、EV(電気自動車)、再生可能エネルギー分野には大きな期待が寄せられ、次世代の電気インフラの構築を担う新たなビジネスとして注目を集めている。

そんな未来ビジネスの発展の鍵を握るのが、AC Biode株式会社が開発する世界初の独立型交流電池だ。

AC Biode

「そもそも電気に直流と交流がありますが、今、世の中にあるすべての電池は直流。
家電やPC、スマートフォンなど、私たちの日常にある電気機器はほぼすべてが直流であり、“電池といえば直流”というのが、今の世界の主流です。

しかし、直流の電池には容量不足や安全性など問題があるのも事実です。
たとえばEVをみても、電池を充電するときのコンセントは交流ですし、モーターを動かす電力源としても交流で使用します。

送電、配電、モーターには直流と交流があるのに、交流の電池はない。
だったら、交流で使う電池があってもいいんじゃないかな、と考えたのがこのプロジェクトの始まりでした」

と話すのは、同社CEO久保直嗣氏。

安全性の向上や容量の増加、長寿命など、従来の直流電池の課題を解決する世界初となる、立型交流電池の開発に着手した。

その仕組みは、負極のAnode(アノード)と正極のCathode(カソード)の間に「Biode(バイオード)」と名付けた両性電極を挟み込んだ独自の構造で、スイッチングによるオン・オフによって単体で交流電流を発生させることに成功。

日本で特許を取得し、ヨーロッパと国際特許も申請済、すでに多くの企業から商談の話も持ち込まれている。

その最たる分野がEVやドローンなどのモビリティと、再生可能エネルギーの蓄電だ。
AC Biodeが生み出した新たなディープテックが、今まさに、地球の未来を担うふたつの環境ビジネスを大きく推進しようとしているのだ。

「自分の力で自分のやりたいことに挑戦したい」その想いが独立への道を拓く

「もともと環境問題に興味があった」という久保氏は、慶應義塾大学環境情報学部に進学。卒業後は全世界で幅広くビジネスを展開する大手商社に入社した。
そんな久保氏が問題意識を持ったもののひとつが、EVにおける「電池」だ。

「私の仕事は電池関連も扱う材料化学をベースに、エネルギーや機械・プラント、インフラに関する営業とファイナンスを担当。学生時代から興味を持っていた大気汚染や気候変動などの環境問題を、ビジネスの観点から解決したいとずっと考えていました。

今や世界中の自動車メーカーが競うように取り組んでいる自動車の電動化。そのボトルネックのひとつが電池なんです。

現在使われているリチウムイオン電池では容量不足という決定的な問題がある。しかし、新しい素材や仕組みを開発するには莫大なコストと膨大な時間が不可欠で、実際、リチウムイオン電池は30年前に開発されてから原理原則は変わっていないのです。

それならば、既存の素材や生産工程を活用でき、なおかつまだ世の中にない交流電池をつくれば面白いなと考えたわけです」

しかし、大手組織で新しい技術開発に取り組むのは容易ではない。

「可能な条件は、事業ステージでいえば、顧客が増え始める『シリーズA』か、経営が軌道に乗って収益が伸びていく『シリーズB』以降。

起業前の『シード』ステージでは、組織内での取り組みはほぼ不可能。だったら、自分の力で自分のやりたいことをやろう」

と久保氏は決意する。

ちょうどこの頃、CTO水沢氏と出会ったことも「新しい一歩を踏み出す大きな力となった」と当時を振り返る。

「自分たちがやろうとしている技術は、世の中にとっても重要なディープテックだという確信がありました。それに、もし失敗しても再就職できるから。

自分の人生を振り返ってみて感じたのは、自分にとってお金はそこまで重要ではないということ。贅沢しなければ、ある程度の収入で暮らしていけるわけですから。

それならば、若いうちにやりたいことに挑戦してみてもいいんじゃないかと思いましたね」

と軽やかに笑った。

起業家としての成功の鍵を握るのは、学位よりもさまざまな人との出会いとネットワーク

そんな久保氏は、12年間勤めた会社を退職後にMBA取得のために英国・ケンブリッジ大学に留学。

「まずは世界を見ておきたかったという気持ちがありました。なかでも総合大学であるケンブリッジを選んだのは、MBAだけの学校よりもさまざまな学部の人たちとネットワークが築けると思ったから。

授業でも、人種や宗教、意見が異なる者同士が敢えてチームを組んでプレゼンする機会も多く、自分とは違う文化や価値観を受け入れるということを学びましたね。さまざまに状況や立ち場の異なる人達に自分の意思を伝えるトレーニングにもなりました」

また、はからずも、AC Biodeの技術の一部は、昔ケンブリッジが開発したものというのだから「縁というものは面白い」と久保氏は言う。

AC Biode

今、各方面から注目を集め、着実にビジネスチャンスを拡げている同社だが、最初から順調だったわけではない。

「世界初の試みでもあり技術系分野の事業は、なかなか理解を得るのが難しい。加えて、投資家やVCの関心はIoTやAIなどデジタル系に集中し、ハードウェア系は対象外というところがほとんどです。

開発を進めていくためには何がなんでも資金調達が不可欠。技術用語を極力翻訳して分かりやすい言葉と定量化によって説明していくと同時に、認知度アップと客観的な信用を得るために、在学中から世界各国のいろんなピッチコンテストに登壇しました」

その結果、英国ケンブリッジ大学、米国MIT、欧州宇宙機関ESA、韓国ComeUpなど、16件のピッチコンテストで優勝を果たす。

狙い通り、世界各国に認められることによって信頼性を高めていくと同時に、ビジネスとしての成功も確信を強めていった。

また、OIHとの出会いもこの頃。

OSAP(OIH シードアクセラレーションプログラム)」に選ばれたことは、私にとって大きな糧でした。
特に新型コロナウイルス感染症の影響で新規開拓のための動きが出来にくくなった、いろんな投資家や企業との出会いの場をつくってくれたことが本当にありがたかったですね。

正直、起業家としての成功にMBAがあるかないかはさほど重要ではないというのが個人的な考え。 資金にしてもビジネスチャンスにしても、大切なのは、ネットワークや信頼性、結局は人とのつながりです。

そういう意味では、留学やコンテストなどの挑戦を通してひたすら多くの人と出会ったことが、我々のビジネスの大きな糧となっています」

AC Biode

英国ケンブリッジジャッジビジネススクールにて

さらにビジネスフィールドを拡大し、日本から環境ビジネスを盛り上げていく

現在、英国とルクセンブルク、日本に拠点を持ち、商談と開発を進めるAC Biode。

国内外の自動車メーカー、電池メーカーなどから数多くの引き合いもあり、2021年の3月までにはドローンでの実証実験を実行。順調にいけば商業化生産もスタートさせる予定だ。

「起業より約2年間で実証実験までたどりつけるのは、電池業界ではかなり速いスピード感だと思います。その理由は、全て既存の材料と電池の生産ラインを活かせること。ここはかなり大きなアドバンテージですね。

交流電池の用途は、モビリティと再生可能エネルギーの蓄電と大きくふたつ。最初はマイクロモビリティから初めて実績やデータを積み上げていって、自動車、蓄電へと事業を広げていく予定です。

さらに、将来的には飛行機や船、空飛ぶクルマなど、我々のビジネスフィールドは大きく広がっていくでしょう」
と、確かな手応えを実感する。

これからのエネルギー産業を支える鍵となる世界初の独立型交流電池。そのストーリーは今始まったばかり。
従来の直流電池をベースにつくられてきたインフラへの対応を含め、解決すべき課題は数多くある。

「乗り越えるべき壁が多いほど、前進する意欲が湧いてきます。今の私たちには失敗の恐れよりもワクワク感や楽しさのほうが大きいですね。

欧米に比べると、環境問題を前面に出しているスタートアップは日本ではまだまだ少ない。新しい技術を通して、日本から環境問題についてさらに広めていきたい」

と、熱い意気込みを語ってくれた。

(取材・文:山下 満子)

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