起業家ライブラリ

大津 良司 氏

ロボット×AIでSDGsに貢献する、社会課題解決型カンパニー

大津 良司 氏

代表取締役
会社名知能技術株式会社
ウェブサイトhttps://www.chinou.co.jp/
事業内容AI・ロボットの事業化コンサルティング、AI・ロボットの技術コンサルティング、AI開発・ロボット開発

ロボットとAIで、環境問題や労働力不足などの社会課題を解決

あらゆるニュースを見ても明らかなように、日々ロボットや人工知能(AI)が発達して、私たちの生活の利便性を高め、社会に良いインパクトを与えてくれている。大阪市内に拠点を置く知能技術株式会社も、ロボット技術とAI技術の両方を兼ね備えた技術系企業として、その発展を支えている。

知能技術が携わってきたプロジェクトは多岐に渡る。たとえば、エンジンで動いていた建設機械を電動化・無人化することで作業の安全性を向上させるプロジェクトから、大手回転寿司チェーンやスーパーマーケットなどで導入されている、タッチパネルに直接触れずとも空中で指を動かすことで操作できるセンサの開発。さらに、病院や介護施設における入院患者や入居高齢者の転落事故を防止するAIセンサの開発なども手掛けている。大企業の漠然とした課題を技術課題に置き換え、課題解決手法を見出し、設計・製造まで一気通貫で対応することを得意としているのだ。

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「ロボットとAIを複合して活用することで、CO₂の削減や高齢化や労働力不足といった社会課題の解決や、SDGs実現への貢献をめざしています。当社の特徴は、技術やサービスを提供するシーズ型ではなく、ニーズ型であること。『この技術を使って、この範囲だけをやります』という制限はありません。どうすればお客様のニーズに応え、課題を解決できるかを必死に考える、難しくもやりがいのある仕事です。」(代表取締役・大津良司氏)

言わずもがな、クライアントである大手企業は、社内やパートナー企業に優秀な技術者を抱えている。そんな彼らでも解決の難しい課題が次々と知能技術に届く。そして、同社は2007年の設立以来、技術力と経験値、そして大阪のものづくり企業のネットワークを活用して、期待に応えてきたのだ。

阪神淡路大震災をきっかけに起業、はじめは「思いだけ」で走り出した

社会課題の解決をめざしているのは、大津氏が起業を決めたルーツに関係がある。そのルーツとは、1995年1月の阪神淡路大震災。神戸市で生まれ育った大津氏は、変わり果てた故郷を見て言葉を失った。

「当時はエンジニアとして企業に勤めていました。しかし、震災で親しい人を失くしたこともあり、なんとか人の命を救いたいという思いが湧いてきて、震災から1週間後には『社会に直接貢献できるものづくり』をコンセプトに、新社会システム研究所(※現在は売却済) という会社を作ったのです。」

大津氏が、最初に開発をめざしたのは無線カメラだった。震災当時、街の様子が明らかになったのはテレビ局が飛ばしたヘリコプター中継があったから。一方、政府や自治体、警察などは、街の状況把握にかなり時間を要していた。この様子を見た大津氏は、「1人でテレビ中継できる無線カメラ装置があれば、バイクや自転車などで災害地に行き、いち早く状況を報告できる。そうすることで、1人でも多くの命を救い出せることに繋がるかもしれない」と考えた。実は、この時点で大津氏は画像伝送や無線の技術についての知見をまったく持っていなかったという。それでも、頭の中に描いたイメージを一枚の絵に起こし、防衛省に問い合わせた。そこで内部の理解を得て、共同開発が始まった。

「今思うと、あまりに無謀で怖いもの知らずな行動ですよね。けれど、改めてこの経験を振り返って思うのは、『なぜその事業をするのか』を伝えることの重要性です。最近では、起業家がピッチを練習できる場も豊富に用意されていて、ついついテクニックに走りそうになるものです。だけど、本当に相手の心を動かすのは、言葉や行動の裏にある思いや熱意なんですよね。」

共同開発を進めながら、ツテを頼って地方自治体や消防庁を回り、「この技術を、他の災害にも活用できないか」と働きかけていた大津氏。すぐに結果は出なかったが、行動を続けているうちにメディアで取り上げられるようになった。そしてある日、メディアを見た人から「雲仙普賢岳噴火災害の現場で、建設機械を無線操縦しようとしているが、うまく通信ができず難航している。御社の装置が活用できるのではないか」と連絡があったことで、事業が加速。大手ゼネコン、国土交通省に採用され全国の災害地や工事現場で活用されるようになるなど、一気に技術が広まった。

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そして、業界で名が知られるようになった大津氏の元に、あるプロジェクトが舞い込んでくる。東京の大手企業と関西のものづくり企業をマッチングさせるというプロジェクトだ。当初はトータルコーディネーターを務めていた大津氏だが、プロジェクトを運営する中で2つの課題に気付く。

「1つは、ものづくりを手掛ける中小企業は、設計図や仕様書に沿って作るのは得意だけれどヒアリングや提案が苦手であること。一方で大手企業側は、そもそもロボットで何ができるのかをよくわかっていないため、ニーズが漠然としてしまい、設計図や仕様書を作れないこと。両者の間には大きな溝があるので、橋渡しする仕組みが必要だと感じました。」

使命感を感じた大津氏は、大阪の企業や自治体からの積極的な誘いもあり、拠点を大阪に移すことに。こうして知能技術が設立され、自らが橋渡しをする存在になると決めた。

社員が気持ちよく働ける環境を整備することも、経営者の仕事

知能技術の社員数は、大津氏を含めて現在5名と非常に少数精鋭。優秀なコンサルタントが、ヒアリングから設計開発まで一貫して行い、製造のプロセスは関西のものづくり企業と連携しながらプロジェクトを進めている。

同時に、大津氏は経営者としての手腕も磨いてきた。その過程で「OIHシードアクセラレータプログラム(OSAP)」にも参加。また、2021年1~3月には内閣府主催の「海外アクセラレーションプログラム」にも、大阪・京都・ひょうご神戸コンソーシアム(注1)の推薦企業として参加した。

そんな大津氏が、経営者として常に心掛けていることは『仕事を楽しむ』ことだという。

「当社に多くの出資をしてくださっている弁護士の先生との出会いが、私にとって大きいんです。その先生とはよく連絡を取っていて、仕事の相談にも乗っていただくのですが、いつも『大津さん、それって楽しいんですか?』と聞かれるんですよ。その度にドキッとします。日々は忙しく、どうしても目の前の仕事に必死になってしまいがちですが、『楽しくやりがいを持って受けられる仕事であるか』や『自分が今楽しめているか』ということには向き合い続けたいと思っています。」

同時に、社員を大事に思う姿勢も決して揺るがない。それは、「お客様のパートナーであり、お客様の技術部門である」という意識で仕事をしているからだ。「同じ会社の仲間のように接していただけるとうれしいですし、反対に私たちを単なる発注先や業者のように思って接してこられると、とても悲しくなります。社員をぞんざいに扱ったり傷付けたりする方は、たとえお客様でも許しませんし、お仕事もお断りします。企業は社員のための器ですし、社員には良い環境でクリエイティブな仕事をしてほしいからです。」

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事業を成長させて、売上や利益を伸ばすことが経営者の役割であることは言うまでもない。しかし、成長を支えるのは大切なメンバーの頑張りである。目先の売上よりも、社員がやりがいを持って働くことのできる組織環境を整備することにこだわっている大津氏が経営者なら、メンバーは気持ち良く働けることだろう。

産業ピラミッドを構築し、ロボット業界拡大への貢献もめざす

大手企業のあらゆるニーズをすくい上げ、形にしてきた知能技術だが、今後は新たな展開も見据えている。それが自社製品の開発だ。

「100社ほどの企業の課題、つまり市場ニーズを解決してきた知見をもとに、複数社に展開できる自社製品を作ります。これまで行ってきた受託開発だと、費用も高額になるため、中小企業はニーズを持っていてもなかなかロボット開発に踏み切れないのが実情です。それでは市場が広がらないので、自社製品の開発に踏み切りました。」

開発を進めている自社製品の一つが、「AIラジコン操縦ロボット」。従来、自立走行型ロボットを進化させるには、ロボットにコンピュータやセンサを積むしかなかった。現時点では「決められた導線の上しか走ることができない」など、動きに制限があるという。しかし、AIラジコン操縦ロボットの場合、天井にカメラを設置し、カメラの映像をAIが読み取って、室内のどこに何があるのかを認識してロボットに指示を出すことで、縦横無尽にロボットを動かすことができるのだ。つまり、ロボットの活用範囲も広げられる。

このように、まだブルーオーシャンで、多くのニーズに対応でき、かつ社会的意義もあるものに絞って自社製品を開発していく。そして今後、知能技術が事業を通して実現をめざしているのが、ロボット業界の産業ピラミッドの構築である。

「自動車業界や電機業界では、大手企業を中心に産業ピラミッドがしっかりと構築されているからこそ、市場が拡大してきました。『自動車産業と同程度のポテンシャルがある』と期待されながら、なかなか拡大しないロボット業界が産業として大きくなるためには、同様の体制整備が必要です。まずは市場にどんな技術を持ったプレーヤーがいるのかを整理し、階層とまではいかなくてもネットワークのような仕組みを作る必要があると思っています。」

自社の成長だけではなく、業界の成長にも目を向けている大津氏。その理由は、「社会に役立ちたい、貢献したいという気持ちで会社を立ち上げた」初心を忘れていないからだ。常に好奇心を抱き、描いたビジョンに向けて一直線に進む大津氏が、これからも日本社会にとって明るい光となる技術革新の波をもたらしてくれることだろう。

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(取材・文:倉本 祐美加)

(注1) 大阪・京都・ひょうご神戸コンソーシアム (大阪市、京都市、神戸市等)
三都市の強みを融合(大阪:大企業、資金、人材、京都:研究シーズ、製品化支援、神戸:社会実証実験・公共調達)。ヘルスケア、ものづくり、情報通信分野に重点。大阪大学、京都大学、神戸大学を中心に大学・研究機関、企業が連携。「大阪・関西万博」に向け経済界を含め京阪神一体となった支援体制を構築し、スタートアップの新技術・新サービスの機会創出を実施。
内閣府.「世界と伍するスタートアップ・エコシステム拠点都市の形成」.
https://www8.cao.go.jp/cstp/openinnovation/ecosystem/index.html(参照 2021-07-06)

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