黑阪 航平(くろさか こうへい)氏

安全で使いやすいパイナップル由来の資材。

めざすは「消毒界のインフラ」

黑阪 航平(くろさか こうへい)氏

兵庫県立長田高校

役職
2年生(2026年6月取材当時)
事業内容
酵素由来のTABELUT(タベルット)消毒の常識を、いま噛み砕く

起業家には社会の課題を発見し、解決に向けて行動する力が欠かせない。論理的にプランを組み立てたり、周囲の人を巻き込んでいく力も重要だ。「起業家マインド」とも言われるこれらの素養に注目し、近年は大学のみならず高校や中学校でも起業家教育が行われている。兵庫県立長田高校に在籍中で、令和7年度スタートアップチャレンジ甲子園【ジュニア部門】で最優秀賞を受賞した黑阪航平さんに詳しく話を聞いた。

「安全性か機能性」という二者択一からの脱却を

スタートアップチャレンジ甲子園には、『酵素由来のTABELUT 消毒の常識を、いま噛み砕く』というプランで参加しました。TABELUTとは、パイナップルの皮や芯など廃材から抽出したブロメラインという酵素由来の消毒剤・有機農薬のことです。

コロナ禍以降、アルコール消毒などを行う機会が増えました。しかし、人によっては肌荒れに悩まされることにもつながっています。もっと強力な消毒剤の場合、深刻な健康リスクを引き起こすこともあります。安全を求めて消毒したのに、危険にさらされるという本末転倒な結果が起こっているのが現状です。

安全という意味では、有機野菜も社会から大きな注目を集めています。しかし農薬を使わない実際の有機農法には、膨大な手間、つまりお金がかかります。逆に、農薬を使うとお金はかかりませんが安全性に不安が残ります。

このように、安全の実現は一筋縄ではいきません。ときには安全性か機能性かという二者択一を迫られます。でもそれはおかしな話です。安全は誰にとっても当たり前に手にできるものであるべきです。

この問題を解決するのがTABELUTです。主成分であるブロメラインはタンパク質分解酵素であり、胃内の酸性環境では活性が低下・失活する性質があります。このような酵素の性質も踏まえながら、安全性の高い製品をめざして研究を進めています。

ブロメラインには高いタンパク質分解活性があり、抗菌作用についても先行研究で報告されているため、作物に散布することで病原菌や病害虫の抑制への応用が期待できます。自然由来の「農薬のようなもの」として使えるのです。さらに、パイナップルの廃材から作ることができますので、食品ロスの削減という効果も持っています。

人々の健康への意識や、サステナブルな社会の実現に対する期待は、世界中で高まっています。TABELUTは、安全が一部の人にとっての贅沢ではなく、誰もが当たり前に享受できるものへと変えていく可能性を持った「健康を支える資材」です。TABELUTが“消毒界の社会インフラ”となることが、私が描く未来の社会像です。

研究者に憧れるなかで出会った起業の魅力

私はもともと、机の上での勉強よりも手を動かす実験が好きでした。「カリカリ」ではなく「ワチャワチャ」が好きなタイプです。中学生の頃は、将来は研究者になりたいと思っていました。そこで進学したのが、兵庫県立長田高校の「人文・数理探究類型」です。この類型では探究活動を活発に行っていて、生徒の自主的な活動を後押ししてくれています。

入学して2カ月ほどで、各自が取り組む探究テーマを決めることになりました。この時期にたまたま見かけたのが、「ブロメラインというパイナップルの酵素がすごいぞ!」というYouTubeの解説動画です。瞬く間にブロメラインの魅力に引き込まれ、翌日には先生に「ブロメラインをテーマに決めました」と報告しました。

長田高校のもう一つの特徴は、起業家教育に力を入れていることです。授業には、起業家やスタートアップを支援している金融機関の方が講師を務めてくれるものもあります。講師の方々のお話を聞くうちに、起業のおもしろさにどっぷりとはまってしまいました。

それまで考えていた研究者は、効果を見つけ出したり、その仕組みを解き明かしたりすることはできます。でも起業家は、それらを商品やサービスという、社会に届ける「形」にすることができるのです。しかも、社会の課題を解決することまでできます。「これは起業するしかない!」と思い、ブロメラインをテーマにした探究活動に起業を組み合わせて考えるようになりました。

YouTubeを見てすぐにテーマを決めたり、授業で聞いた話に影響されて起業をめざしたりと、私自身は、おもしろいと思ったらすぐに行動するタイプです。そんな私の性格をよく理解しているのか、「起業したい」と言い出した私に対して、両親は特段反対することもなく見守ってくれています。九州で行われたスタートアップのイベントに参加した際は、交通費を出してくれました。高校生にとって神戸から九州への交通費はなかなか大きな負担なので、とてもありがたかったです。

大学在学中に事業化をめざす

ブロメラインを消毒や農業に用いることについては、先行研究などを調査し、理論的には効果や安全性が確認できています。現在は大阪大学のSEEDSプログラムに参加し、実験を行って効果などの検証をしています。

私はいま高校2年生なのですが、高校在学中にブロメラインに関する科学的根拠を確立し、そのうえで大学生のうちに事業としてスタートさせることが目標です。でも実は、必ずしもTABELUTでの起業にこだわっているわけではありません。高校で起業に関する話を聞いたり、ピッチイベントなどで起業にチャレンジしている人たちと交流しているうちに、ますます起業の魅力に引き込まれていきました。

起業とは、アイデアと情熱さえあれば、社会を変えられる可能性が他のどの仕事よりも高いからです。以前は、「社会は複雑で1人の力で変えることなんて無理」と思っていました。でも起業すれば変えられる可能性があるのです。「おかしいな」と思ったことや、「何とかしたいな」と思ったことを、何とかできてしまう。それが私にとっての最大の起業の魅力です。

ですからたとえTABELUTを事業化できなくても、何か別のテーマで起業すると思います。核融合発電という魔法みたいなエネルギーにも興味があるので、そちらの道に進むかもしれません。となると、まずは大学進学が現実的な目標と言えそうです。

OIHをこんなふうに活用しました!

兵庫県に住んでいることもあり、スタートアップチャレンジ甲子園にエントリーをしたことで、初めてOIHを知りました。チャレンジ甲子園で登壇した他の学生や、支援機関の方々とは、今もつながっています。そして今回のような取材機会に繋がったり、新しい情報を提供してもらったりと、“行けば必ず何かを持って帰ることができる場所”、それがOIHだと思っています。

令和8年3月8日に開催された、令和7年度スタートアップチャレンジ甲子園では、ジュニア部門にて最優秀賞“Best Innovation Award”を受賞した

取材日:2026年6月18日
(取材・文 松本 守永)