血管をつくる幹細胞「血管内皮幹細胞」の技術を使った細胞治療薬の開発を進めるリバスキュラーバイオ株式会社(以下、リバスキュラーバイオ)。微小血管の障害によるさまざまな疾患を治療することをめざす、大阪大学発のスタートアップだ。社名には、「再び」を意味する<Re>と、「血管」を意味する<vascular>を組み合わせ、「血管を再生する」という思いが込められているという。代表の大森一生氏に、これまでの歩みと未来への展望を伺った。
髪の毛ほど細い微小血管を再生させる治療薬
私たちの技術の元となる「血管内皮幹細胞」とは、壊れた血管を再生させる「血管の種」とも言える細胞で、大阪大学微生物病研究所の髙倉伸幸教授によって世界で初めて発見されました。
血管は、太いものから髪の毛ほどの細いものまで、私たちの身体に張り巡らされています。それはまるで、栄養や酸素を身体のすみずみに届け、また不要になったものを回収する物流網のようなもの。高速道路のような太い血管から、路地裏の小径のような細い血管までを合わせると、その全長は約10万km ※1、地球2周半にもおよびます。そしてその95%以上を占めるのが路地裏の「微小血管」です※2。
微小血管は、健康な体の中では必要に応じて新しくつくられ、不要になれば壊されるというダイナミックな営みを繰り返しています。それを支えているのが、血管をつくる「種」となる細胞、「血管内皮幹細胞」です。ところが、年齢を重ねたり病気になったりすると、その「種」が減り、新しい血管がつくられにくくなることで、病気の原因になったり、傷が治りにくくなったりします。大きな血管の治療は、狭くなった部分をステントで広げたり、別の血管をつないだりなどの方法がありますが、微小血管は細いのでそのような治療ができません。

私たちが開発する細胞治療薬は、微小血管がつくられにくい部分に血管内皮幹細胞を植えて育てる薬です。微小血管の障害による疾患には、心筋梗塞後の心不全や、脳の微小血管の障害に起因する認知症、糖尿病による脚の壊疽など、さまざまなものがありますが、まずは傷が治りにくい難治性皮膚潰瘍をターゲットに、細胞治療薬の開発を進めています。
※1参考:東邦大学「血液の神秘」 【2006年7月号】より
※2参考:ヘルシスト276号(2022年11月10日発行)掲載 特集 血管を知る 生活習慣病と大きく関わる毛細血管の「ゴースト血管化」より
髙倉教授との出会いで起業を決意
私は20代の頃、糖尿病専門の内科医として臨床現場で働いていました。30代になり、「新たな発見によって、より多くの患者さんを助けたい」と考えるようになり、大阪大学の大学院へ進学。血管病や動脈硬化の研究に取り組みました。
研究が一段落したときに、さらに視野を広げたいと考え、MBAを取得するためのビジネススクールに進学。そこで創薬を事業とするスタートアップがあることを知りました。その後、医師として働きながら、スタートアップの経営人材を育成するセミナーに参加したところ、その指導者の方が、髙倉教授を紹介してくださいました。
髙倉教授は医師という共通のバックグラウンドもあり、当時、若手研究者だった私に対し、血管内皮幹細胞の技術について、とても丁寧に説明してくださいました。そのときはまさか自分が起業するとは考えてもいませんでしたが、髙倉教授のお人柄に触れていくうちに、「この素晴らしい技術を、社会に届けたい」という気持ちが強くなっていきました。
微小血管の治療は、基本的に身体が本来持っている再生能力を待つしかありません。結果として脚を切断せざるを得ないなどの厳しい現実を、これまで臨床医として数多く目の当たりにしてきました。「血管内皮幹細胞を使った細胞治療薬なら、治療が難しい患者さんを救うことができるのではないか」そう考え、2022年9月、製薬会社やVCでの経験を持つ西角文夫(現COO)とともに、リバスキュラーバイオを設立しました。
世界中の患者さんに細胞治療薬を届けたい
細胞治療薬は、その性質上、錠剤のように工場で大量につくって在庫を持っておくことができません。安定した製造方法と品質管理を確立することが大きな課題だったのですが、そこにようやく目処が立ち、現在は非臨床試験の段階にあります。
まずは難治性皮膚潰瘍の治療で、2027年には人に投与する前の安全性試験、2028年には治験を開始することを目標に、準備を進めています。治験で効果と安全性を確認できれば、今後は心不全や認知症など、さまざまな病気の治療へと広げていきたいと考えています。
将来的には、グローバルな販売網を持つ製薬会社へライセンスアウトし、より多くの患者さんに届けていきたい。そのため、海外の製薬会社も視野に入れながら、事業を展開していく予定です。またその対価の一部が特許開発元である大阪大学にも還元され、次の技術開発へとつながるような、アカデミアと企業の循環も実現できればと考えています。
医師は失敗してはいけない仕事ですが、スタートアップに必要なことは、むしろ失敗から学び、ブラッシュアップしていくこと。そのことを実感しながら、これからも治療薬の完成に向けて、一歩ずつ前進していきたいと考えています。
OIHをこんなふうに活用しました!
2023年、関西スタートアップインキュベーションプログラム「起動2期」に採択され、資金面だけでなく、会社の成長に向けた相談や海外展開への道筋づくりや、日本医療研究開発機構(AMED)の補助金の申請資料の作成をサポートしていただきました。その補助金は今も私たちの事業のとても重要な資金となっています。2026年には、「OIH GLOBAL BRIDGE」にも採択され、海外展開に向けた支援も受けています。OIHのプログラムはいつも次の展開を後押ししてくれる、とても大きな支えになっています!

英語でピッチを披露した。
取材日:2026年9月17日
(取材・文 岩村 彩)

