起業家ライブラリ

新井 翔平 氏

今までにないサービスで歯科業界を変える!

新井 翔平 氏

代表取締役
会社名株式会社HANOWA
ウェブサイトhttps://hanowa.net/
事業内容歯科医療従事者のシェアリングプラットフォーム「HANOWA」の運営

歯科医院の働き方改革を後押し

多くの経営陣を悩ませる課題のひとつが人手不足。「求人を出しても人が集まらない」「せっかく採用してもすぐに辞めてしまう」という声は、業種や企業規模を問わず、全国各地で問題になっている。それは、歯科業界も同じだ。特に、歯科医院に欠かすことのできない専門職である歯科衛生士の採用は、困難を極めている。

国家資格である歯科衛生士の資格を持つ人材は28万人あまりいるが、このうち実際に就業している人は13万人あまり。実に15万人もの人材が職場から離れている状況のなかで、“人手不足”が叫ばれている。

このミスマッチを解消し、歯科医院の人材採用や歯科衛生士の求職活動をサポートするのが、株式会社HANOWAが運営する歯科医療従事者向けシェアリングプラットフォーム「HANOWA」だ。2021年5月現在、大阪市と東京23区を中心として約300の歯科医院と約500人の歯科衛生士がサービスを利用している。

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人材のマッチングサービスとしては、求人広告や人材派遣、人材紹介サービスがすでに存在している。しかしこれらのサービスでは、「職場の魅力や労働環境が十分に伝わらない」「院長の人柄や仕事への方針がわからない」「求職者のスキルや経験、人柄がよくわからない」といった、求人側にも求職者側にも物足りなさがつきものだった。結果、「思ったような人が採れない」「思ったような職場がない」という不満につながっていた。また、それらの不満にフタをして無理に採用や就職することが、「すぐに辞めてしまう」という事態の原因にもなっていた。このようなミスマッチを解消できるとされる人材派遣や人材紹介も、コスト面の問題などで利用をためらう歯科医院も少なくない。

対するHANOWAは、歯科衛生士という人材リソースを、複数の歯科医院で“シェア”する。常勤として採用するのではなく、「必要なときに、必要な人に来てもらう」のだ。求職者である歯科衛生士は、家事や育児、その他の用事などの状況と照らし合わせながら、「何曜日の何時から何時であれば働ける」という申し出を行う。これらをHANOWA上でマッチングすることにより、歯科医院は無理なく人材確保でき、歯科衛生士も無駄なく仕事をすることができる。

「HANOWAを使った採用/就労は、『お試し採用/お試し就職』という一面も持っています。最初は曜日や時間限定で働いてもらうことによって、求人側はその人のスキルや仕事への姿勢を実際に見ることができます。求職側も同じように、労働環境や院長の考え方などを自分の目で確かめることができる。この時間を重ねたうえでフルタイムでの採用/就職となれば、マッチングの精度は非常に高くなります。」(代表取締役・新井翔平氏)

HANOWAのサービスを導入した歯科医院では、「有給休暇を取りやすくなった」という声が次々に上がっており、スタッフの働き方改革を大きく後押ししている。「HANOWAに登録しているから、有給休暇を気兼ねなく取れますよ」ということは、歯科医院が採用活動をする際の大きなPR材料になっており、「歯科衛生士が採用できない」という課題を解決する重要なツールになっている。

ビジネスの課題や解決策に常に考えをめぐらせる「冒険者」

現在34歳の新井氏が最初に就いた職業は、就職情報サイトを運営する会社の営業職。ここで、人材サービス業界の仕組みを学ぶとともに、「いつまでもこのままでは業界自体が社会から置いていかれる」という課題を感じた。

ビジネス経験を積んだ新井氏は次に、フリーランスでWEB制作サービスを立ち上げる。ここで歯科医院と出会い、WEBを活用し集客をサポートした。また、前職の経験を活かして歯科医院における人材採用も手伝うように。経営者である歯科医のパートナーとして、ともに歯科医院の経営を考えるようになった。

「歯科衛生士はほとんどが女性です。彼女たちの多くは20代の初めに資格を取って就職し、その後、結婚、出産、育児などさまざまなライフイベントを経験します。それに応じて、本来であれば時短勤務やパートタイム雇用、都合のつく時間での複数の職場の掛け持ちなど、多様な働き方があっていいはずです。ところが歯科医院が求めるのは、フルタイムで自分のクリニック専属として働いてくれる歯科衛生士であることがほとんどです。ここに決定的なミスマッチがありました。逆に言えば、このミスマッチを埋める仕組みがあれば、歯科医院も歯科衛生士もハッピーになれると思いました。」

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人材サービス業界で働いていた経験や、歯科医院で採用活動を手伝った経験も、従来的な人材サービスでは問題を解決できないと感じる要因になっていた。そして同時に、「では、自分だったらどうするか」とも考えていた。
「性格診断などをすると、『冒険者』『アイデアマン』と診断されます。そう言われてみれば、いつも『こうすればもっと良くなるのに』『自分ならこうするな』と考えていました。そして、このことこそが自分の強みだと考えるようになりました。現在のHANOWAにつながる活動は、そこから始まっていきました。」

行動を始めた新井氏はまず、相談に乗ってくれるエンジニアをインターネットで探した。構想しているサービスを実現するにはどのようなシステムが必要で、費用はどれぐらいかかるのかを教えてもらったのだ。また、エンジニアとの話のなかでスタートアップの知識も得た。

「一緒にサービスを作り上げる仲間も、インターネットで探しました。興味を持ってくれそうな人が集まる掲示板にメッセージを載せたり、Twitterで発信したりしたのです。ツイッターのDMは、3日間で100通ぐらいは送りました。そのうえでZoomでミーティングをして、思いに共感してくれる現在のメンバーに絞り込みました。」

ちなみにメンバーは、新井氏以外は過半数が、関東在住。コロナ禍もあってこの1年あまりはリアルに顔を合わせて仕事をすることはほとんどなく、リモートでやり取りをしている。しかし、「まったく問題はない」とのこと。

「大阪に拠点を置き続けているのは、離れていても業務に支障がないことに加えて、『鶏口牛後』の気持ちもあるからです。東京に行って集団に埋もれてしまうよりは、大阪で先頭を走り、存在感を発揮していきたいと考えています。」

起業は手段。目的や問題意識を大切に

2018年の春からHANOWAの実現に向けた情報収集や仲間集めを始め、2019年1月に会社を設立。2019年12月にサービスを開始した。この間、OIHが主催する海外展開をめざすスタートアップのピッチコンテスト「GET IN THE RING OSAKA」に参加したり、「OIHシードアクセラレータプログラム(OSAP)」に参加するなど、ビジネプランのブラッシュアップや情報収集、各方面との連携に努めた。

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これらのプログラムに参加することのメリットの1つとして、知名度の向上と顧客網の拡大があると新井氏は言う。新井氏の場合、OSAPでの活動がメディアで紹介され、それを見た歯科医からの問い合わせがあったそうだ。

「そして何より大きなメリットは、人との出会いです。スタートアップを支援するプログラムや公的機関などには、同じような目標や悩みを持った人や、それらを支える人が集まります。私の場合、東京のベンチャーキャピタルと出会うことができましたし、そこからさらに人脈を広げていくこともできました。」

現在は企業としての成長ステージの階段を昇っていき、後輩たちから相談を受けることもあると言う。そんななかで感じているのが、「起業が目標にはなっていないだろうか」という疑問だ。

「起業はあくまでも、目標を実現するための手段です。私の場合、従業員の人件費をはじめとした会社の固定費が、お客さんにはね返っていくという仕組みに納得がいきませんでした。これを何とかしたいと考えた結果、実現するための手段として起業がありました。」そこで新井氏が提案するのが、「まずは目の前の仕事にしっかりと取り組もう」ということだ。

「キラキラして見える起業に比べたら、請負仕事や代行業務、コンサルティングなどは地味で単調に見えるかもしれません。でも、それらの業務のなかから、業界が抱える課題や仕組み上の問題が見えてくるのです。課題や問題が浮かび上がれば、起業すべきかどうかも具体的に考えられるでしょう。相手が喜ぶこと、相手のためになることに一生懸命取り組む経験は、必ず役に立ちます。」

ソフト、ハード、OSを自社でまかなう歯科医院を立ち上げる

直近では2021年4月に6,000万円の資金調達を行った同社。主にマーケティング活動にこの資金を当て、HANOWAを利用する歯科医院の拡大と登録する歯科衛生士の増加を当面の目標としている。そして長期的には、「自分たちの歯科医院を持ちたい」と新井氏は言う。

「イメージとしてはAppleです。AppleはハードからOS、ソフトまでを統一感を持ってサービス提供しています。そのことによって、従来とはまったく違う新しい体験を世の中に提供してきましたよね。私たちで言えば、ハードが歯科医院、ソフトが歯科医療に従事する人材、そしてOSが人材プラットフォームであるHANOWAです。この3つを併せ持つことで、私たちもAppleのように、誰も経験したことのなかった、新しい歯科医療体験を提供したいと考えています。

近年、さまざまなICTが導入されて業務の効率化や経営の革新が行われている。しかしそこで用いられているSaaSは、本来は連続性のある業務を無理やりぶつ切りに分断し、その中の一部分だけを対象としたものが多い。しかも互いのSaaSには互換性がないので、経営全体として見たときには、必ずしも使い勝手がいいとは言えない。この問題を解決する方策として、「それならば、自分たちが医科医院を作ろう」と新井氏は考えた。

「予約システムを導入するので、待合室で待たされることはありません。歯科医院特有の不快な音や臭いも取り除きます。支払いはキャッシュレスです。物販はネットで注文・決済し、ドローンで翌日には配達します。もちろん、人材はHANOWAが支えるので、適正な人数のスタッフが配置され、質の高い歯科医療を提供します。」

歯科衛生士の働き方に対する疑問から始まったHANOWAのサービス。歯科医院のあり方を変え、私たち生活者と歯科医院との付き合い方を変えてくれる日も、そう遠くはないかもしれない。

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(取材・文:松本 守永)

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